真夜中。既にパターン化してしまった流れのまま情事へとなだれ込もうとした時、何かの拍子に「身体を開いたのはあなただけだ」と告げた。僕の告白を聞いた彼は、何ともいえない複雑な表情をした後、普段よりも強い力で僕を押し倒した。 うっすらと感じ取れた彼の心の揺れを、嬉しいとは思わない。寧ろ怖い。そして呆れや嫌悪といった感情を抱かない自分が、ただただ浅ましく、同様に恐ろしかった。
ずるり、と引き抜かれる感覚に背筋が震えた。湿った音を立てて、繋がっていた部分が離れる。 それと同時に感じた喪失感にひどく動揺して、未だ息の整わない益田は小さな声を上げた。
「…あ、」 「益田君?」
僅かな反応を見逃さず、青木は身を屈めて益田の顔を覗き込む。半開きになった唇の隙間から赤い舌がちらりと見え、それがやけに扇情的だ。 物欲しげな益田の表情に青木は冷ややかな一瞥をよこし、その薄い胸元に唇を落とした。達したばかりの敏感な身体は、ふいに齎された刺激に大袈裟なほど震える。
「いっ…ちょ、あおきさ」 「まだ足りなかった? 意外に貪欲だよな、君は」
青木はくすくすと笑いながら、左右のそれを執拗に弄る。顕著な反応を示す己の身体を持て余し、益田はうっすらと目尻に涙を滲ませた。
「ひ、どい。僕はこんな」 「こんな?」 「あなたのせいだ」
恨みがましい視線を受け流して、青木は笑みを崩さずに益田の下肢に手を伸ばした。再び硬くなり始めていたものを握り込まれ、益田は息を呑んだ。
「や…!青木さんっ」 「酷い事はしないよ」
だから余計にたちが悪いんじゃないか、という一言がどうしても言えずに、益田はただ俯くしかなかった。甘いだけの行為は嫌な錯覚を起こさせる。互いに代用品であると但し書きがしてあるからこそ、この関係が成り立っているというのに。
「何を怖がっているんです」
笑みを含んだ声音のくせに、眼差しだけは恐ろしく真剣な青木の愛撫に翻弄される。「馬鹿馬鹿しい」と頭では考えているのに、益田は彼の手を拒む事が出来ない。やめてだの嫌だの、まるで女のような抗いを見せながら、結局は脚を開く。自分の欲望はなんと醜いのだろう――切れ切れにそう思った。
「馬鹿だなぁ、君は」 「…っ、あなたに、言われたくないです」 「お互いさまだね」
必死で叩いた憎まれ口も、不意の口付けで塞がれてしまった。 (単なる粘膜接触が、何故こんなに甘い) 何一つ分からない。出口の見えない快楽の波と不透明な関係性に嫌気がさし、程なくして益田は冷静な思考を放棄した。
end.
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