同衾した翌日の朝は大抵どちらもあまり口を開かないのだが、その日は何かが違った。具体的に表そうとしてみれば大して差は無いのだが、触れる空気や温度、息遣い。そんなものが少しだけ違った。
日焼けした畳の上にいい歳をした男が二人、面白くもなさそうに食卓を囲んでいる。下宿の大家から貰ったのだという唐子柄の湯呑みを両手でしっかり包みこみ、目の前の男――益田は、とてつもなく真面目な顔をして言った。
「青木さん」 「何ですか」 「僕は昨日ね、あなたの夢を見たんです」
そうですか、と僕は何の感慨もなく返した。随分とそっけない反応だが、仕方ないだろう。それ以外にどう言えばいいのか分からなかったし、あまり興味も無かったのだから。 彼はそんな僕に構うことなく淡々と続けた。寝不足のせいか、細めた目元が少し腫れぼったい。
「知ってますか青木さん。夢に誰かが出てくるのはね、その相手が、自分の事を想っているからなんですよ」 「……はぁ?」 「あなた僕の事好きなんでしょう、青木さん」
真顔だ。どこからどう見ても真顔だ。眉一つ動かさないその細面をまじまじと見つめて、とりあえず僕は何か言わなければと考えた。しかし彼はそんな僕の言葉を待たず、小さく吹き出して笑った。
「ふふふ、冗談ですよ」 「たちが悪いぞ」
たちが悪い。本当に。 嫌悪感を剥き出しにした僕を満足げに眺めながら、彼はニヤニヤと口を歪める。しかし、次の瞬間には大きなため息を吐いた。
「全くです。嫌になっちゃいますよ、夢を見たのは真実ですから」
先程彼の語った話は、ずっと昔に酒の席で聞いた事がある。実にくだらない話だと、当時の僕は相手にもせずに笑った。 そんなもの、夢を見た人間の強がりか自惚れだ。自分が相手を好きだと認められないから、そんな事を考えるのだろうと。
困りましたねェ、と言う割に対して困っていなさそうな彼の声を聞きながら、今度こそ僕は返答に詰まった。
end.
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