京極 | ナノ



 夜闇の中だからこそ許される関係がある。明るみに出てしまえば、それは途端にグロテスクな正体を露わにするのだ。

(だって仕方ないじゃないか。だから僕は、)





* * * * *





 「そういえば、明るい日の下で彼を見るのは久しぶりだったな」と、青木は台所で珈琲の用意をしている益田を眺めてそう思った。
 昨日の夜、流されるままに転がり込んだ益田の部屋は、相変わらず殺風景で目新しいものは何一つ無い。ただ、無造作に畳まれた一組の布団が、妙に生々しく青木の神経に障った。

「どうしたんですか」

 眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいる青木の前に、温かな湯気を立てる珈琲が置かれる。見ると、怪訝そうな顔をした益田が、自分のカップを手にしたままこちらを見つめていた。

「いえ…別に」
「別にって顔じゃないですけど」

 ケケケ、と例の気色悪い声で彼が笑う。カーテンの開け放たれた窓からは、眩しく輝く朝日が容赦なく彼らに降り注ぎ――まるで、昨夜の行為の醜さ、歪さを糾弾しているかのようだった。
 あまりのいたたまれなさに、青木は益田の目をまともに見ることが出来ずに俯いた。そんな彼の心中を知ってか知らずか、益田は先程から一言も話さない彼に向かってニヤニヤと嫌な笑いを投げかけてくる。その笑みの軽薄さに言いようの無い苛立ちを感じながら、青木は珈琲カップを握りしめたまま小さく舌打ちした。

「…君は平気なのか」

 洩れた呟きは極々微かなものだった。しかし彼の葛藤を見透かしたように、益田はその言葉を平然と受け止め、一蹴する。

「今更だと思うんですけどねぇ、僕は」
「………」

 ま、僕は青木さんのそういう所好きですけど。と告げたきり何も言わずに出社の支度を始めた益田へ恨めしげな一瞥をくれてから、青木はようやく珈琲に口をつけた。
 内に凝ったわだかまりごと飲み下すように喉を鳴らすと、彼に背を向けてネクタイを締めていた益田の口端が、ほんの少しだけ上がった。





(仕方ないじゃないか。だから僕は、聞き分けの良い男を演じるしかない)






end.



後朝(青益)



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