シュ、とマッチを擦る音がした。
「あ、煙草」
「ん? 君は嫌いだったっけ」
「いいえ、そうじゃないんですけど……青木さんも吸うんですね、煙草」
「まぁね。でも、どうしてそんな事」
「昔――まだ警察に居た頃、上司がよく吸ってましてね。なんとなく思い出しちゃいました」
「ふぅん」
それだけなんです、と言って益田は笑った。それは一見、いつもの下品で軽薄な笑いのようだった。しかしそこから滲み出る悲哀の色を、青木は見逃さない。見逃そうにも、彼は益田の微妙な仕草から成る感情表現のほとんどを理解してしまっていた。 不本意極まりないが、それが事実であることに変わりない。 そして同時に、感情を読み取ることは可能でも、その真意までは分からないというのも事実だ。
(“青木さんも”…ね )
一体誰との比較なのだか――…むくりと頭をもたげた不快感を、青木は素知らぬ顔で黙殺した。
end.
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