ちょっとは仕返ししたって、お咎めはないだろう。そうだ。いつもの仕返しって口実にすりゃいいじゃねぇか。

小さな小瓶を手の平で転がしながら色々と思考を巡らせていた。薄いピンク色のこの小瓶。今日、オレ様不動様は大冒険に出ようと思う。

真帝国以前に絡んでいた奴に手を回してもらって手に入れた小瓶。側面には[aphrodisiac]と印されている。メーカーはもちろん製造国すらイマイチ分からないこれは、そう。所謂、媚薬といつやつだ。
手に入れた奴が言うには“たった数滴で長時間の効果。即効性の薬だから使いすぎるな”とのことだった。
もちろん、使うのは俺ではない。いつもいつも俺にヤりたい放題ヤる、あいつ、に使うつもり。

今日、オレの家に来る予定の鬼道ちゃん。
今日くらいは俺が挿入側になろうっていう計画だ。

しばらくするとインターホンが鳴る。何も知らない鬼道ちゃんのお出ましだ。


「いらっしゃい」

「あぁ。お邪魔します。」


髪はいつも通り結っているが切れ長な赤色の瞳はゴーグルで隠されてはいない。射るようなその目線で見られるとつい今日の本当の目的を忘れてしまう。慣れってのはホント怖いもんだな。


「適当に座っててよ」


リビングのソファに腰掛けて、そこらに散らばっていた雑誌に手を伸ばしたのを確認してから、オレはお楽しみの準備をする。
インスタントの紅茶を煎れてマグカップに注ぐ。ポケットに忍ばせておいた小瓶を取り出し片方のマグカップへと、一滴、二滴……いや、せっかくの楽しい日なんだ。こんなんじゃつまんねぇな。さらに三滴、四滴…小瓶の中は大分少なくなった。
何事もない顔をして、紅茶を2つソファへと運ぶ。縁が緑のマグカップが媚薬入り特製紅茶だ。何も言わずに緑のほうを鬼道ちゃんへと差し出した。鬼道ちゃんの赤目がオレを凝視する。


「お前、こんなことするのか」

「は?」


心臓がドキリと音をたてる。バレてたってのか??


「紅茶だとは…洒落たことが出来るんだな。不動にも。」

「当たり前だろぉが。」


口の端だけを上げた鬼道ちゃんの馬鹿にした笑みはオレが紅茶を出してやったことに対してだった。


「ただ、もう少し熱くないとだな。」


そう言って鬼道ちゃんが緑の縁に口を付ける。何とでも言えばいいさ。あとで散々な目に合わせてやる。鬼道ちゃんがマグカップを傾けて特製の紅茶が口の中へと流れ込んでいくのが分かる。あとは、喉が動くのを待つだけ……
その時だった。


「うむぅっ…!!」


喉が上下したのはオレの方。
紅茶を含んだ鬼道ちゃんの唇はオレの唇の上。つい癖で軽く開いていたそこに、流れ込んできた液体。
今飲み込んだモノ…舌の上に残る香りを舐める。紛れもない紅茶の味がした。


「もう少し熱くないと、こうなるだろう。」


そういって目を細める鬼道ちゃん。やっぱりバレていた。だからって…あぁ畜生!!












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