柔軟、ランニング、簡単なパス練習にリフティング競争、軽いシュート練習。基礎の基礎を固める、とウチのキャプテンが言ったからこんな感じの練習メニュー。
紅白で分かれての実践練習はあたしの好きな練習だ。日本代表選手の三人が帰って来て、かの有名な「皇帝ペンギン3号」を見たときには興奮した。幸次郎が止めにかかったが完璧にダメだった。あのシュートを見たときから帝国サッカー部の選手はみんなやる気に満ち溢れている。
15分ハーフの試合を終わらせて、個人の動き、チームの動きの反省会。反省会が終了するとここで初めて休憩となる。あたしの忙しいのはここからだ。


「あんたら、タオルはここよ!!飲み物はそこのクーラーボックスの中だからね!」


マネージャーの代わりも勤めるあたしは休む間なんてない。


「小鳥遊ー飲み物足りないよー」


剣五がクーラーボックスの脇でしゃがみながらあたしを呼ぶ。そんなはずはないのに。ちゃんと全員分の飲み物を用意してたつもりだったんだけど、確かにクーラーボックスの中には保冷剤しか残っていなかった。


「なんで足りないのよ。取ってくるから待ってて。」


そうとだけ言い残して、グラウンドの反対側へと向かう。反対側には倉庫がある。ボールやコーンをしまう為の倉庫と、万が一の為の飲み物や救急用具の入っている倉庫。まさか、万が一がここで来るとは思ってもなかったけど。
倉庫に入ると奥に1リットルペットボトルの水を箱買いしたものが置いてあった。とりあえず、箱ごと出さないと暗くて何がなんだか分からない。箱を抱え上げる。ズシッと重さが腕に伝わる。


「重っ」

「ほら。貸せよ。」


不意に後ろから聞こえた声に振り返ると倉庫の入り口に人影が見えた。


「…明王じゃないの」

「そうだよ。オレ様が持ってやるっつうんだよ。」

「あら、明日は雪かしら。」


笑い混じりに冗談を言ったら、持たねぇぞ、なんて言いだした。生意気ねぇ。それにしてもあたしがここに来るのを見てたのかしら。まあ、どうにせよ、持ってくれるならその言葉に甘えることにしよう。あんな重いのはあたしじゃ持てないから。


「なんで、あんた来たの??手伝うため??」

「ハッ。オレの分の水がないんだよ。」


あたしが持てなかった箱を軽々と持ち上げる。やっぱり男よねぇ。重くないかと訊ねれば、なぜ持てないのかとバカにされた。
ホントに明王はあぁ言えばこう言うって奴。

ベンチにまで持って行った箱を明王は落とすように置いた。重かっただろうなとか重う。幸次郎とか、そこそこ力がある人ならまだしも、明王なんか、細いし。
剣五が、やっと来た、と箱に飛びついた。入っているのは1リットルペットボトルだ。明王が箱を運んでいる時にあたしが一緒に倉庫から運び出した紙コップを配る。


「不動、お前の。」

「あ、さんきゅー」


聞こえた会話に目を向けると有人が明王にペットボトルを手渡していた。……あいつ、自分の水がないって言ってたじゃん。

まったく……手伝いなれてない奴。

誰にも気付かれないように笑った。








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