勝手知ったる鬼道ちゃんの家。否、部屋。
ベッドに座っていたオレは「宿題を終わらせる」と言ったきり机から離れなくなった鬼道ちゃんを暫く見つめていた。が、あまりにも退屈過ぎる。

「なぁ、」

「なんだ。」

「何の教科?」

「数学と国語、だ。」

…話が続かねぇじゃないか。
仕方なく黙って、じっとしていたが大概退屈すぎる。何か面白いことはないかと部屋を見渡していた目線が一つのモノを捉えた。
ベッドを歪ませて立ち上がると目線の先へと向かう。

「何してんだ。」

「クローゼット漁り〜」

そう。クローゼット。
ゆっくりと開けると、辺りに漂う鬼道ちゃんの香り、というか鬼道ちゃん家の洗剤の香り。
私服―マントが数着あるのは軽くスルー―が並ぶ中、オレの目に映ったのは左肩の位置に大きく入ったイナズママーク。そう。雷門中の制服だった。
そっと、取り出して鬼道ちゃんの方を見る。よし、気づいてない。慎重に学ランを着込んでいった。

「鬼道ちゃん」

振り返った鬼道ちゃんの動きが硬直した。
「……」

「サイズピッタシじゃん」

「な、にしてんだ」

「暇だから」

鬼道ちゃんはこめかみに手を当てるとため息を吐いた。

「きちんとなおしとけよ」

んだよ、つまんねぇ。
脱いだ学ランを綺麗に整えてクローゼットに戻した。

「なあ、似合ってたか?」

「あぁ。」

「オレも雷門に転校しようかな、なんてな」

「来ればいい。俺の家で暮らせばいいさ。」




(オレより先に言うなよな)
(制服が不動の匂い)


【遠い近さ】




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