「小十郎さん、お待たせしました!」
「ああ、お帰り」

夕暮れの学校の校門前。小十郎さんが私を迎えに来てくれた。
というのも、実は私達は、その…俗に言う恋仲でありまして、小十郎さんとお家に帰るまでの2人きりのデートです。

「今日は政宗様と長曾我部が料理をしている。なんでも、むにえるというのを作りたいらしい」
「ああ、洋風料理で魚料理ですもんね」

楽しみだな、と小十郎さんと並んで歩いていると、前から他校のカップルが手を繋いで歩いてきた。
とても楽しそうに何かを話している。すれ違うとき、私の目は自然と2人を追っていた。

「どうした?」
「あ、いえ、何でもないです」

不思議そうに問いかける小十郎さんに、何でもないように取り繕う。
だって、小十郎さんは大人だし、きっと人前でああいう風に手を繋いだり私が甘えたりするのはきっと恥ずかしがるでしょう。
だから、隣を歩くだけで、今は…。

「…おい、青空」
「ふぇっ、はい!」

考え事をしている最中に名前を呼ばれて顔をあげると、小十郎さんは眉間に若干皺を寄せていた。
もしかして、何か怒らせるようなことをしてしまったのでしょうか?
何でだろう、付き合い始めてからたまにこうやって、小十郎さんが怖いと思うときがある。
好きなのに、大好きなのに…これは、不安?

「な、何でしょうか?」
「…歩くのがいつもより早ぇ。そんなに早く帰りたいか?」
「えっ!?いえ!そんなことは…」
「それとも…俺と2人きりは、辛いか?」

その一言に、私の中で押さえていた枷が外れた。

「違います!」

じん、と鼻の奥が熱くなって、涙が一つ流れ落ちる。

「わ、私っ、小十郎さんが大好きです!でも…小十郎さんが…」
「俺が?」

私と目線が合うように腰を屈めて、優しい声音で問いかけてくれる。

「好きになってから…小十郎さんが、怖いって、思うようになっちゃって…大好き、なのにっ…!」
「…青空」

怖い、でも本当に怖いのは…私の行動一つをすることによって、小十郎さんに嫌われることが怖いの。

「ふぇっ、小十郎さん…!」
「何だ?」
「お願いだから…嫌いに、ならないでぇ…!」

子供みたいにこう言って泣く私は、きっと小十郎さんを困らせているのだと思う。
それでも、小十郎さんには…!

「青空」

涙を拭っている手を、小十郎さんに押さえられる。
そして、額に柔らかい感触。キス、されたんだ。
涙を流す私の目を、小十郎さんはとても優しい目つきで見ている。

「…俺も怖いと思うことがある。俺といることでお前を傷つけていないかと思うと、俺は辛い。
 俺は見ての通りの男だ…政宗様や他の連中にも言われたことがあるが、強面の俺と、お前が一緒に歩いていると、お前が奇妙な目で見られていないか…」
「そんなことっ…!」
「だから、俺はお前が隣を歩くだけでいいと思っていた」

だけど、と言い彼は私を自身の腕の中に収めた。温かな胸の中、大きな鼓動が聞こえる。

「俺はそれだけで、いいと思っていた…だが、どうしてもそれは認められねぇ。それだけじゃ、俺は抑えられねぇ」
「小十郎さん…私、私もっ」
「ああ、お前をどんなときでも、この手に繋ぎとめておきてぇ」

右手が、小十郎さんの左手と重なる。指の間にお互いの指を絡ませる、所謂恋人つなぎ。

「お前は俺のものだ、だから…」
「はい、私は、貴方のものです。だから…」

ずっと、離さないでくださいね?

そう伝えると、小十郎さんは優しく微笑んで頷いてくれた。
彼の利き手が私の右手を力強く握る。きっと、小十郎さんは安心してくださっているんですね。

ねぇ、小十郎さん。私は貴方のような素晴らしい方の隣を歩くでも幸せなのでしょう。
でも、でもね、私は貴方のモノです。
だから…お願いだから…神様!!



隣を歩くだけで幸せ?

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