目が覚めると、どこまでも続く青い空が眼前に広がる。
その中を浮遊する雲の塊が、ゆったりとした速度で流れていく。

「あ、政宗さん、目が覚めましたか?」

突如、青空が目覚めたばかりの俺の顔を覆いかぶさる様に覗く。
だがコイツは今まで見慣れた容姿、雰囲気ではない。
髪が伸びて、女特有のふっくらとした体つき。
着ている物はいつものような洋服ではなく、白と蘇芳色の春らしい着物。
オレを見つめる瞳は、仕草は、表情は、綺麗を具現化したようなものだった。
気持ちのよい風に靡く髪を押さえる姿は…
言うならば、大人びている。
ゆっくりとオレは体を起こした。
心なしか、青空との目線の高さに差ができている。
そこでなんとなく、大人びたのはコイツだけじゃないと感じ取った。

「ふふ、たくさん遊んで疲れましたよね」

遊んだ?オレが?誰とだ?
青空がオレから視線を移した先に、オレも視線を移す。
少し離れた場所で、2人の子供が。
ついて歩くのがやっとそうな女児を、しっかりと大地を歩く男児が手を繋いで歩いている。
その2人は俺等の視線に気がつくと、弾けるような笑顔でこちらに走ってくる。
そして、男児は青空に、女児はオレに飛び込んでくる。

「見て!四葉の見つけた!」
「まぁ、凄いね。きっといいことがあるよ」

優しさで満ち溢れる微笑を一心に受けたガキは、手にしている四葉を青空に差し出す。

「あげる!プレゼントフォーユー!」
「ふふっ、ありがとう」

青空はそれを大事そうに受け取り、ガキの頭を撫でる。
するとガキはこれまた嬉しそうな顔をして、青空の胸に頬を摺り寄せた。

「…おいクソガキ、オレの青空にべたつくな」
「ぐぇっ、な、何すんだ!離せー!」

ガキに嫉妬なんざcoolじぁねぇが、気に食わねぇもんは仕方ねぇ。
人の女に手を出す上等なガキの顔を自分の方へと向ける。
そいつは、まるでオレのガキの頃にそっくりだった。

「もう、政宗さん、自分の子供ですよ?」

なんとなくだが、わかっていた。
髪の色は青空に似ていて、目つきやその他は間違いなくオレに似ていると。

「とーしゃま、しゅごいー」

そんでもって今オレの膝の上ではしゃいでいるコイツ。
髪の色と目の色はオレだが、その他は完全に青空が小さかった頃に似ている。
オレらの子供は、両の目でしっかりとオレを見上げている。

「っ、か、かーさまは手ぇ出さないで!今日こそはオレがオヤジに勝つんだ!」

なんでオレと青空で反応が正反対なのかは置いておいて
どうやらこれは、未来の世界のようだ。

「…幸せ、だな」
「はい、幸せです」

『今』と変わらず、花が似合う笑顔だ。
この先に続く未来は、きっと、ずっと、いいモンなんだろうな。

「だから…」
「政宗さん?」

身を少し青空の方へと乗り出し、顔の距離を縮める。
ぽぽぽと頬を赤く染める姿は、変わらない。

「…とーしゃま?」

…ああそうだ、オレ達のガキがいたんだったな。
オレに生意気で、だが青空を好きなところはオレと同じガキと
青空に似て甘えん坊で、優しい笑顔を持つガキ。
そいつらの視界を、そっと、優しく見えなくしてやる。

「青空」

こっちを向け、と名前を呼ぶと、コイツは素直にこちらに顔を向ける。
桜色に染まる頬をし、薔薇のように赤い唇を差し出す。
嗚呼、幸せだ
この世界を壊さないためにも、オレは

「Good bye」

『今』を生きる。
『現実』に戻るための、キスをした。



さようなら

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