季節は、初夏。
暑いというのにも関わらず、コイツはハイネックのノースリーブTシャツ着用だ。

「そんなもん着て、暑くねぇのか?」
「暑いですよ、小十郎さん…」

ふぅ、と小さな溜息を漏らす唇も、真っ赤に染まるほどだ。
そんでもって、大きな目は少し恨めしそうに俺を見ている。
何故俺を睨む。睨むよりならもっと涼しいものを着ろ。
そう言いたくなるも、俺の直感が止めさせる。
言えば怒りそうな雰囲気だからな、コイツ。

「…私だって、ワンピースとか着たいです。でも、もうちょっと我慢です」

着ればいいじゃねぇか。
VネックのTシャツを着ている俺を、青空はうーと唸りながらじとりとした視線をぶつけてくる。

「小十郎さんの、せいです…」

俺のせい?ワンピースを着れないことが?我慢をすることが?

「小十郎さんが、こんなとこにつけるからぁ…!」

くいかかって来る青空がハイネックを少しずらすと、その下には白い肌。
その上にうっすらと赤い印が、よく映えている。
だが、なるほどな。だから胸元が開いた服を着れないってことか。

「せっかく新しく買ったのに…でも、その我慢も今日まで!たぶん明日には消えているはずです」

消えている?
買ったばかりの服を着たいって気持ちから嬉しそうに言うのはわかる。
わかるが、俺がつけた印が消えるのをそこまで喜ばれると、いい気がしねぇのはわかるだろ?

「…なら、そのワンピースを着てみろ。俺が見てやるよ」
「えっ、で、でも…」
「俺なら問題ないだろ?見られても」
「あ、そうですよね、じゃぁ、ちょっと着替えてきます」

いそいそと自室に駆けて行く。
正直すぎるのが青空のいいところであり欠点でもある。
数分すると自室の扉が開いた。
そこには、花柄の清楚なワンピースを身に纏った青空。

「どうですか?」

くるりと俺の前で回ってみせる姿に、俺の周囲だけがもう真夏の温度のようだ。
似合っている、似合っているのだが…少し、肌の露出が多くないか?
こんな格好で街をうろついてみろ、確実に声をかけられる。
あまつさえ俺のいないときだったらどうするんだ。
その格好で逃げようにも、走り辛いだろう。ドンくさいお前のことだ、確実に捕まる。

「あの、小十郎さん?」

不思議そうに俺の名を呼ぶ青空が、ずっと黙って見つめてくる俺に近づいてくる。
ああ、そうやって近づくのか。畜生。駄目だ。
掴んだ肩は狭くて白くて、少しでも力を入れすぎたら壊れちまいそうに薄い。
なるべく手加減だ、こいつは硝子細工のように繊細で、砂糖菓子のように甘いから。
先程まで隠していた首に、なんの予告もなしに喰らいつく。
驚いた青空は反射的に体を逃がそうとするも、させない。

「こっ、小十郎さん!?」

身動きできねぇようにすっぽりと体を包んじまえば、俺は目の前にある白く柔らかな砂糖菓子を喰うことだけに集中できる。
甘い甘い、俺には甘すぎる。

「だ、駄目っ、また、つけちゃぁ…!」

その声はちょうどいい音楽で、甘美な菓子を耳でも堪能する。
心地よい音、滑らかな舌触り、強く吸わずとも、赤い印がそこに残る。
3回ほど食べただろうか、その柔らかな肌から唇を離す。
耳にはまだ、甘ったるい吐息が、目では、艶美な青空が、まだ俺を楽しませる。
さらさらと髪を梳いてやると、息を整えた青空がすかさず怒りを露にする。

「駄目って…言った、のにぃ…!」

どうやら頭を優しく撫でるだけでは怒りは治まらないらしい。
仕方ねぇだろ。なんて言えば火に油を注ぐ行為だ。
かと言って謝る?それもそれで解決方法の一つだ。けど今は謝らない。

「止めろと言われて、止められる男じゃねぇよ。俺は」

じっと相手の目を見つめると、顔を真っ赤にし、何か言いたげだがそれを飲み込んでいる。
これだから、俺は止められない。
いい加減気付いてくれ、お前は俺を止められない。俺も自分を止められない。
だから、また首に喰らいついた。




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