「ねぇ、青空ちゃん」
「はい?」
「好きだよ」

2人だけしかいない自室。その言葉が部屋と私を支配する。
私を背後から抱きしめながら、佐助さんは耳元でそう囁いた。

「わ、私も、佐助さんのこと好きです」

後ろにいる彼に聞こえるように、でも恥ずかしくてはっきりとはしていない声で、私の気持ちを伝える。
すると佐助さんは、にっこりと満足気な笑みを浮かべて私の額にキスをしてから離れる。
なんてことが、しばしばあるのです。
最初は佐助さんの気まぐれかスキンシップだと思ったけど、何回も同じパターンを繰り返されたら流石に何かを思う。

「ねぇ、青空ちゃん…好きだよ」

現に今も、その時がきていた。
背後から抱きしめられて、耳元で愛の言葉を囁かれる。

「………」

しかし私は、この謎を考えていてそれに対し返事をしなかった。
少し、回された腕に力がこもる。

「青空…?」

先程の調子とは違う、疑問と不安が入り混じった声で私を呼んだ。
試しに、私は沈黙を保ってみることにした。

「青空…好きだ」

また、耳元で囁かれる。でもあえて何も反応しない。
断じて佐助さんが嫌いになったわけじゃないの。ちょっと、からかってみたくなっただけ。
だって、いつも佐助さんは余裕そうに私をおちょくったり、自分のペースに持ち込むんだもの。
だから、佐助さんのこのパターンの行動の意味を考えつつ、ちょっぴり意地悪しちゃう。
何も言ってこない私を見て、彼はきっと不思議に思っているに違いないでしょう。

「…ねぇ」

少しだけ肩に重みが。
横目で見ると、赤みがかった髪の毛が少し見える。
佐助さんは私の肩に額をくっつけ、頭を乗せながらまた囁く。

「青空、好きだ」

…きっと、私が何か言わないとこれがずっと続く気がする。

「…どうしたんですか、佐助さん」

率直に疑問に思っていることを、聞いてみることにした。
少しだけ上半身を捻り、彼と顔を合わせる。

「それはこっちの台詞」

ちょっぴり不貞腐れた表情で、私の唇に一指し指を乗せた。

「いつもなら言い返してくれるのに、今日は何も言わない」

む、やっぱり、佐助さんは私が照れる様子を見て楽しんでいるんですね?
私がいつも同じ反応をすると思ったら大間違いです!

「ねぇ、俺様青空ちゃん大好き」
「ありがとうございますー」

ぷいっと顔を背ける。
いつも佐助さんは大人っぽく私をからかうから、今度は私が大人っぽく(?) 佐助さんを私のペースに持ち込んでやります。

「…ねぇ、好き、だよ」
「はい」
「好き」
「はい」
「好きだ」
「…はい」
「大好き」
「……」

なんだろう、この感じ。
まるで佐助さんの「好き」って言葉が、私から何かを引き出す呪文みたい。

「好きって言い足りないくらい好き」
「っ…」
「俺様の好きが全部青空に伝わればいいのに、凄く時間がかかっちまう」
「さ、すけ、さん…」
「好きだよ。これからもずっと」
「ぅっ…」

佐助さんが「好き」って言うたびに、胸がきゅぅって締め付けられるみたい。
佐助さん、佐助さん、私も…

「青空、好きだ」
「…佐助さんっ」
「愛してる」

振り返ったその時、佐助さんは私を縛り付けるような目で、愛の言葉を囁いた。

「佐助さん…私も、佐助さんが好き、大好き」

彼の首に腕を回し、さっき佐助さんが言ってくれた分まで、今度は私が紡ぐ。

「好き、です…好き、大好き」
「うん」
「好きすぎて死んじゃいそうなくらい、佐助さんが好き」
「うん」
「私の一生分、佐助さんが好きなんです」
「俺も」
「佐助さん…好き」

たくさんたくさん言った。でも、やっぱり足りない。
一息つくと、佐助さんの手が私の頬に触れる。その手に重ねる自分の手。

「なぁ、もっと、聞かせてくれ。青空の言葉で…好きだよ、青空」

優しいキスが、与えられる。
佐助さんが、世界で一番好き。
そう思ったとき、1つわかったことがあるのです。
佐助さんの「好き」は、私の「好き」の誘発弾。
きっと佐助さんから言わせれば、自分だけが好きなのは不満だから。
でもそれを聞けないのは…。



聞くのも照れくさいから。

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