青空がガッコーに行った日の朝、この世界を知るために見ていたてれびのにゅーすでやってた特集に俺はいいことを思いついた。
「長曾我部殿、何をなされておられるのですか?」
幸い、俺のしていることに興味を示したのは初心で餓鬼の真田幸村。
女向けの便箋に、俺はまだ慣れないこの世界の書体で綴る。
「べんきょーだよ、べんきょー」
「勉学でございますか。何を学んでおられるのですか?」
そうきたか
「そりゃぁ、この世界の事とかだよ」
「なるほど、して、この世界の何について学んでおられるのですか?」
コイツ意外としつけぇ。悪意がねぇのが一番厄介だぜ。
これ以上深入りされたらばれちまう。追っ払うか。
「そうだなぁ…しいて言うなら、青空のこと、じゃねぇの?」
「な、なぁ!?そそ、それは勉学ではないのでは!?」
「学んでるじゃねぇか。青空のいろんなことや…体、とかよぉ」
「はっ、破廉恥!長曾我部殿っ、みみ、見損ないましたぞ!」
そう顔を真っ赤にして説得力なく叫び、真田の餓鬼は俺の横から立ち去った。
「…ま、体も気になるとこだがな」
それより気になるのは…アイツの、心。
青空をもっと知りてぇ、それは事実そう思う。
だが、何かと邪魔が入ったり、直接聞きにくいことだってある。
だから俺はそれを、文に託した。
これからアイツと文のやりとりが続けられたらいいと密かに思いながら、書いた思いをなるべく綺麗に折りたたみ懐にしまった。
「ただいまですー」
「おぅ、早ぇな」
きた…わ、渡すんだよな、これ。
あー畜生、今になってなんか恥ずかしくなってきやがった。
「お帰りー」
「今日のおやつは俺が作ったクッキーだぜー」
「本当ですか!?食べます食べます!」
「あ…」
笑顔で着替えに自室に戻る青空にさり気無く伸ばしかけた手を引っ込める。
つか、なんだよ、あ。て…すげぇ情けねぇ声だったじゃねぇかよぉ…。
我ながら情けねぇ。西海の鬼が文1つ渡せねぇなんてよぉ。
「慶次殿、もう一ついただいでもよろしいでしょうか」
「駄目だよ旦那、さっき食べたでしょ」
「そうそう、これは青空の分!」
そもそも、コイツらのいる前で渡しても厄介なことになるじゃねぇか。
い、今渡さなくてよかったんじゃねぇか!はっはは、はぁ…。
んで、結局いつ渡せばいいんだ?
「いただきまーす」
慶次の作ったくっきーを頬張り幸せそうな顔をする青空。
その周りを鼻の下が伸びた野郎が囲むから、渡せたもんじゃねぇ。
…いっそ、コイツの部屋に置いてくるか?
そうすりゃぁ風魔にはばれてもしゃべることはねぇし、青空にだけ伝えられる。
決心して俺は1人青空の部屋にこっそりと忍びこんだ。
よし、べっどの上に置いて…。
置こうとべっどに腕を伸ばした瞬間、何やら首筋に冷たいものが。
「……(何をしている)」
どうやら、コイツは俺が主の部屋を漁っていると勘違いしているらしい。
首筋にブツが当てられている以上、長居はできねぇ。
結局文を再び懐にしまい、俺は早々に青空の部屋を立ち去った。
はぁ〜…
「溜息つくと幸せが逃げるらしいぜ」
口に出ていたらしい。
つーのも、結局渡せていねぇことからきてんだがな。
何故かこういうときに限って、少しでも青空と2人きりになるきっかけがねぇ。
むしろ、空回りすらしてる気がする。
誰かしら、青空の隣を陣取っていて、青空を笑わせている。
そう考えたとき、ふと、あまり思いたくないことが出てきてしまった。
別に俺がこれ渡さなくても、他の誰かが話し聞いてやってんじゃねぇか?
別にわざわざ俺が文を渡さなくても、慶次とか忍とか、話しやすそうなやつらにしゃべってんじゃねぇか?
…捨てるか。
自棄に気疲れをしていた俺は、憶測だけで決めた。
これさえ捨てりゃぁ、気疲れの原因を捨てるも一緒だ。
ゴミ箱へ、文だけじゃなくこのよくねぇもんも捨てようとした。
「元親さん」
背後から澄んだ声が俺の捨てようとする動作を止める。
首だけ後ろに捻りゃぁ、声の主はただ俺に優しく微笑んでいた。
「…なんだ」
「何か、あったんですか?」
まったく、コイツは他人のこととなると鋭い。
ここで何でもねぇと言ったら嘘になる。
正直に言えりゃぁいいものを、俺の無駄な自尊心が邪魔をしてくる。
暫く俺が口を開かないでいると、青空は俺が今まさに捨てようとしているものの表紙を見て、それに手を伸ばした。
「私宛…元親さん、私に、ですか?」
隠す間もなく奪われたそれと俺を交互に見やる綺麗な瞳に、俺がばつが悪そうに映っている。
その目に今更嘘をつけるはずがなく、俺は正直にことの経緯を話した。
「その、最近、悩み事とか、いろいろ面と向かって話しにくいこととかねぇか…?
なんならよ、その…文なら、伝えやすいと思ってよ…」
がりがりと頭をかきながら、小さなコイツを視界に入れないように斜め上を見ながら言う。
正直今、どんな顔をしていいかわからねぇ。
「元親さん…」
俺の名を呼び、こっちを見て、とでも言うように俺の服の裾を引っ張る。
目線を少し下に向ければ見える、俺を見上げる可愛らしい顔。
「ありがとうございます、早速、お手紙書きますね」
青空はたいそう嬉しそうに、はにかんでいた。
言葉通り青空は受け取った手紙を大事そうに胸に抱いて自室に戻った。
ぱたんとその部屋の扉が閉められると、俺はその場にしゃがみこんだ。
「…んだよ、結局きっかけはアイツからじゃねぇか」
そう言うと脳裏に浮かぶ先ほどの愛くるしい笑顔。
自分にだけ向けられた、笑顔。
思い出せば顔が熱くなり、他のやつらに見せれば茶化されるであろう顔に手を当て、白い天井を仰いだ。
きっかけを作り過ぎて空回り。
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