甘いものが好きな私と貴方。

「こっ、ここで『けぇきばいきんぐ』とやらが開催されておるのか?!」

おしゃれな建物の前に置かれた看板には、『ケーキバイキング開催中!』と大きく銘打たれている。

「早速入るぞ!」

お菓子があるとなれば恥ずかしさも忘れるのか、私の手を引き中に入る。
…来る途中とかは、なんだか緊張している様子だったのになぁ。

事の発端は昨日の朝の折込チラシ。
偶然幸村君がこのお店のケーキバイキングの徳安チラシを見つけ、私にそれを持ってきて目を輝かせてきたのです。
私も甘いものは好きだから、ケーキバイキングという素敵なイベントを逃すわけにはいきません。
それに…。

「その…そそ、某と、2人で行ってはくれぬか?」

珍しく耳打ちをしてきた、幸村君からのお願い。
気恥ずかしいらしく、耳まで真っ赤にしていた。
同じく私も、顔を熱くしながら頷く。
だって、大好きな彼からのお誘い。
ドキドキしないわけがないじゃないですか。
初めてのデート。
ピンクのスカートにお花の髪飾り。いつもよりちょっぴりおめかしをしてみる。
ちょっとでも彼に、可愛い、って思ってもらえるように。
でも、その彼は

「美味いでござるっ」

ケーキに夢中なのでした。
すっごく美味しそうに食べて…可愛いんだけど…。
いや、ちょっとはこの展開を予想はしていましたよ?
だって、幸村君はいつも慶次さんとかに恋愛に疎いって言われてからかわれてるくらいだし、乙女心なんて、考えたことはないと思う。
こんなことを幸村君に求めちゃうのは、わがままなのかな?

「どうしたのだ、青空?」

名前を呼ばれ下げていた視線を前に戻すと、幸村君が口元に生クリームをつけながらこっちを見やる。

「先ほどからあまり進んでおらぬが…どこか、具合でも悪いのか?」

上目遣い気味に私を見る瞳から、つい目を逸らしてしまう。

「そ、そういうわけじゃないよ!」
「なら、食べたほうがよいぞ!美味いでござる〜!」

にぱっと、満面の笑みでまた、ケーキを一口ぱくん。
眩しいくらいの笑顔に、私の靄は溶かされた。

「ふふっ」
「何を笑っておるのだ?」
「うん?あのね、幸村君が可愛くて」
「なっ、可愛い…!?」

私の一言につい後退りをする幸村君の顔は、耳まで赤い。

「かか、可愛いなどっ、そのような軟弱な…!」

フォークを持つ手を大きく震わせ、慌てる姿は…可愛い。

「ふふっ、だって可愛いんだもーんっ」
「うぬぬ…も、もうよいでござるっ」

ちょっぴりぷんすか怒ったように、ケーキを大きく頬張る。
ね、それが可愛いっていうんだよ。

「ほら、クリームついてるよ」

口元に付着したクリームを掬い取り、自分の口に運ぶ。
こういうのも、母性本能を擽るみたいで、可愛い。

「っぅ…!」

ほら、また顔を真っ赤にしてる。

「おっ、お主とて、ついているでござる!」
「えっ、どこ…」

自分の口元に持っていこうとした手を、幸村君に掴まれる。
そのまま幸村君側にひっぱられると、すぐ前には幸村君の顔が接近していた。
口元に、一瞬だけ柔らかいものが触れる。
すぐ離れたそれには、白い生クリームが薄っすらと。
それを、ぺろりと舐めてしまった。

「と、取れた、ぞ…」
「あっ、あ、ありが、とう…」

互いに恥ずかしくなって、俯く。どうしよう、顔、絶対に真っ赤だよ…。
だって、急にどきどきするようなことするから…!

「…こっ、これ、美味いでござるよ!青空のそれも美味しそうだな!」
「えっ、あ、うん!あ、よ、よかったら食べる?」

動揺しながらもお互い平常を装って会話をするけど、これじゃぁ丸わかりだね。
でも正直、恥ずかしいけれど、嬉しい。
言葉で伝えられなくても、愛情が伝わる。
よりいっそう、私も彼が好きなんだって、思うの。

「和菓子も好きだが、やはりけぇきもいいものだな!」
「うん!あ、私にもそれ一口ちょうだい?」

好きなものを共有するこの時が楽しくて仕方がない
甘い香りが、幸せを運んでくれる。

「うまいでござるーっ」

幸村君の笑顔でが向けられることが、「可愛い」って言ってもらえるより、いいのかもね。
…でも、やっぱり言ってもらいたいかも?

「…愛くるしいな」
「えっ…!?」
「この飴細工の兎、可愛らしいでござる!」

ああ、もう…



子供っぽくてもどかしい。

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