目の前に幼馴染がいる。
伊月俊が赤い舌をだして、アイスを舐めていた。
おとこなら一思いにかじってしまえ、と私はいつもおもっている。酷い言い草だ、自覚はしてるけれども直す気はない。
私は同い年の幼馴染は雑に扱うことにしているのだ。
ゴリゴリだかガリガリだかばきばきだかそんな名前の棒アイス。真っ青。
長いことそれを舐めているのに、伊月俊の舌はちっとも青くならない。私は二つ目のパピコに手を伸ばす。
「なまえ、食べ過ぎ」
「うるさい」
「腹壊すよ」
「いいでしょ」
夏休みもそろそろ折り返し地点を迎える。
負けたから、夏休み、遊べる、と途切れ途切れに電話をかけてきた俊に、私はなんと言ったっけ。ばかじゃないの、とかはあ?だとか、いつも通り辛辣なことばを返したと想う。わからない。
俊の部屋の蒼いカーテンがひさひさと揺れる。シンプルで、ものの多い部屋。ポケットのなかでそれがこすれて音をたてた。
グレイの涼やかな目が、流して私を見つめる。心臓がひっくり返りそうだ。すぐに食べ終わったパピコのごみを捨てようとして、…捨てて気を紛らわせようとして、立ち上がった。
ポケットのなかで、珊瑚の髪飾りが音をたてた。
花浅葱に染まった爪がてのひらを傷つける。ぐいっと、身体が傾いだ。
してやったりというような顔で俊は笑っていた。
「危ないでしょ…!」
「な、あのさ」
悪戯なように、冷えた目に、このうだる夏の暑さなど微塵も感じさせない眸に、私はひらいたくちをとじることすらできない。細身の腕時計。視線を逸らすのが精一杯だ。
「何日経った?」
「…一週間」
「なまえ、何日待ってって言った?」
「…一週間」
「だよな」
伊月俊、まるで鷲のように危険な男だ。
「返事まだ?」
軽い音をたててパピコのごみが落ちる。あしが竦みそうだ。ポケットに突っ込んだ手に、いつだか俊がくれた、珊瑚の髪飾りが触れる。
くちにするのにも変な気がして、肯定の意味をこめて頷けば、敏い幼馴染は口角をあげたまま立ち上がって、パピコを拾った。
空を舞ってゴミ箱に入る。
「やりぃ」
「ナイスシュート、」
入り込んだ舌は青の味がした。
訂正、今目の前にいるこの綺麗な男は幼馴染じゃなくて私の恋人である。