「星が綺麗だね」
にっこり笑った私を見て、きー君が困ったように笑う。
「今から冒険は無理ッスよ?」
私と彼の遊ぼうという誘いは昔から「今日は天気がいいよ!」だった。だから、きー君が誤解しても仕方ないのだが、私は首を横に振った。
「違うよ、今のは素直な感想」
「あ、そうなんスか。……そうッスね、田舎は星がよく見えていいッスよね」
私が空を仰ぎながら言うと、きー君も同じように空を見上げた。
「だよねー。私、就職は東京の予定だからちょっと寂しいんだよね」
「何でッスか? 今までより近くなるッスよ」
「きー君とはね。でも、地元の皆とは離れちゃうよ」
都会に就職した友人やきー君と近くなる一方で、地元に残った友人や家族とは今までより疎遠になってしまうだろう。そんな事を今から考えても仕方ないと自分でも思うのだが、早すぎるホームシックだろうか。
「嫌なんスか?」
「え? ……そんな事ないけど、ちょっと怖いのかも」
「怖い?」
「今、暮らしてる環境とは全く違う場所に行くから」
延々と田んぼが続いて、鈴虫が鳴いて、蝉が騒がしくて、たまに蛍を見付けて年甲斐もなくはしゃいだりして。そんな日常から離れるのが不安なのかもしれない。
見上げる空はいつもは綺麗なのに、まるで数え切れない星が一気に迫ってくるような恐怖を覚える。そんな訳ない、頭では分かっているのに。
「……でも、俺は嬉しいッスよ」
きー君が私の手を握ってきた。驚いて見ると、拗ねたような視線とかち合う。
「みょうじと今までより気軽に会えるんスから」
「うん、ありがとう」
ぎゅ、と手を握り返しながら笑う。
きー君がいるんだから大丈夫、何の根拠もないけれど素直にそう思えた。
仰ぎ見た空はさっきよりずっと高く澄んで見える。
「綺麗だね」
そうさっきよりもしみじみと呟く私に、きー君は笑った。