きらびやかな星屑 | ナノ

 今朝ちらりと見た天気予報で晴天だとうたわれていた空を仰ぐと、日が落ちた今でも雲ひとつ見当たらなかった。空には点々と星が散りばめられていて、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうだ。


「どこ見てんの」
「そら」


 相変わらず上を向いたままそう答えると、隣を歩く和成が何だか不機嫌そうにそーですか、と溢した。空が、星が、あまりにも明るく私達を照らすものだから、何だか少し気恥ずかしくなった。いつもならこうして二人並んで帰ることなんてないのだけれども、普段通り部活があった和成と委員会があり学校に残っていた私は、一緒に帰路を辿っている。
 あ、あれ知ってる。北斗七星。ばーか、北斗七星は春の星だから、この時期には見えねーの。凄いねー博学。当たり前だろ。
 なんて、お互い上を見ながらそんな会話をした。ちらり、と和成を盗み見ると、同じように和成もこっちを見た。視線が合うと、和成はにっこりと微笑んだ。


「なぁなまえ」
「んー?」


 一遍の風が頬を撫でる。あのじめじめした夏とは違い、ほんのりと肌寒い秋の風に身じろぎした。こんなに近くで名前を呼ばれたのは久しぶりだなぁ、なんて呑気なことを考えながら空返事をした。私の瞳が捉えているのは夜空の星星。どうしても、和成の顔が見れなかった。


「最近あんま、会ってなかったよな」
「そーだねー」
「電話とかメールも、前より少ねぇし」
「そーかもねー」
「なぁ、なまえ」


 和成に名前を呼ばれるのは、嫌いじゃない。少し低い和也の声が、私の体を震わせる。
 和成が言葉を紡ぎ出す前に、私は和成の顔を見た。ずっとずっと、心に秘めていた言葉が口をついて出た。唇を動かすたびにずきりと何かが痛む。
 別れよっか。
 気付くと和成はその場に立ち止まっていたようで、ゆっくりと振り向くと泣きそうな顔をしていた。
 冬が来るということは、バスケ部にとって戦いが訪れるということ。優しい和成は、多忙から私に構えなくなるのをきっと心配しているだろう。私だって和成にはバスケに集中してほしいし。もしも私の存在が和成の邪魔になってしまうなんてことになるのならば。いつからか考えて、考えて。どうしようかとずっと自問自答していたことなのに、口から出るのは案外簡単なんだとなんだか少し、感傷的になった。


「……なまえは、それでいいのかよ?」
「うん。いいよ」


 安心して。ちゃんと、好きだったよ。
 心の中で唱えた言葉が和成に届くことはなく、そっか、とどこか吹っ切れたような顔をした和成がいた。和成から目を逸らすように仰いだ夜空には、嫉妬してしまいそうなくらい綺麗に、身を寄せあっている星達が浮かんでいた。あの星は、結ばれる運命だったのだろうか。寒空に瞬くあの星は、きっと二つ季節が過ぎる頃には見えなくなるのだろう。星には、絶対に同じ時期に見ることが出来ない星があるって、前に聞いたことがある。あぁ、何だかそれって。


「好きなのになぁ」


 和成が何かを発した気がしたけれど、きっと気のせいだろう。もしも冬が終わっても私のことが好きだったら、その時は。