物心ついた頃からいつも一緒で、性別なんか気にすることなく一番の友達として遊んでいた。

それが、小学校の高学年になった頃からなんとなく、アイツは男で自分は女で、ということを実感することが多くなり…


気づいたらアイツのことを好きになっていた。





●第一話●

side:風丸


「なあ、円堂って陸上部の風丸と付き合ってんの?」


4月の始め、ちょうど始業式があってクラス替えがあった3日後の中休みのことだ。
1年の終わりから円堂に英語の辞書を貸しっぱなしであることをふと思い出した。

アイツのことだから辞書を借りていたことなんてすっかり忘れているだろう。
自分で返してもらいに行かなきゃ、もしかしたらなくされるかもしれない。

そう思った私は円堂のクラスへ向かい、教室に入ろうとした瞬間その会話が耳に入り、思わずドアの外に身を隠した。
ドアに隠れて中を覗くような行為をしていたが、幸い円堂達のクラスは次が移動教室だったようで、辺りに人はほとんどおらず、自分のことを不審がる者はいなかった。

「ハハ…またその質問かよ。」
おそらく円堂はこの手の質問を何度もされているのだろう。笑ってはいるものの、ややうんざりとした様子で答えている。
「いや、俺たちははじめて聞くんだけど…」
「そーだっけ?」
「そうだよ!…で、実際のところはどうなんだよ?」
相手の男が円堂の机に手を付き、身を乗り出して円堂に詰め寄った。

「風丸とはすっげー仲いいけど、別に付き合ってはねーよ。ただの幼なじみ!」
言い慣れたセリフなんだろう。円堂は動揺することもなくサラリとそう答えた。

…ズキリ。
自分の胸が痛むのを感じた。

「じゃあさ、好きとかそういう感情もないのか?お前たち登下校もしょっちゅう一緒にしているし、二人で遊んでいるところを見たーって言ってる奴も多いけど。」
今度は最初に質問してきた男とは別の男がみを乗り出してそう聞いてきた。
「ただの幼馴染だって。ちっせー頃からほとんど毎日のように遊んでいたから、それが続いているだけだぜ。」
円堂はまたもや全く動揺の色を見せることなく、サラリとそう言い切った。

…ズキン。
さっきよりも深い胸の痛みを感じた。

そうだよな。
円堂から見たら私はただの幼なじみ、なんだよな。
こんなこと前々からわかっていた。
…こんな感情を抱いているのは私の方だけなんだろうな。
少しは期待していたんだけど…。

円堂と男達はそれからもしばらく会話を続けていたようだが、まったく頭に入ってこなかった。



「おい、お前。そんなところで何ボーっとしているんだ?」
いきなり声をかけられてビックリした。
どうやら私はしばらくドアの側でボーっとしたまま立ち尽くしていたようだ。
振り返って声の主を見ると、自分より背が高く、褐色肌で白髪をツンツンに立てた男が立っていた。
鋭い目つきと眉毛が印象的でなかなか目立つ見た目をしていたが、見たことのない顔であった。

「あ、あ…えっと…その…英語の辞書…」
いきなりのことでびっくりしたせいか、自分でも何を言っているんだろうという感じだった。
「あれか?英語の辞書忘れて、誰か貸してくれそうか人を探していたのか?」
「あ…え??…う、うん。そうそう。」
全く違うのだがとりあえず話を合わせていた方が怪しまれないだろう、と思いそういうことにしておいた。
ちなみに今日は英語の授業などない。

「ほら、貸してやるよ。」
白髪の男はロッカーから辞書を取り出し、私の方に差し出してきた。
「え…そんな…悪いよ」
英語があるわけでもないのに、知らない男から辞書を借りるのはさすがに気が引ける。
「でも、お前困ってんだろ?」
「…」

ああ、どうしようと思ったその時だ。

「風丸さん、今日日直だったわよね?次の授業のプリントを運んでほしいから、今すぐ基山君と一緒に職員室まで来てくれないかしら?」
担任の先生がそう話しかけてきた。
「あ、はい。すぐ行きます。」

自分の教室の方向をみると、ヒロトはもう職員室へ向かおうと教室から出てきていた。
私も急がなきゃ…!!

「あ、えと…。ありがとうございます。…あの、昼休みに必ず返しにいきますので!」
とりあえず辞書は借りることにして、目の前の白髪の男に礼を言い、急いでヒロトの元へ向かった。




しょっぱなからgdgdですいません。