これが、恋というものなんだろうか…






side:豪炎寺


●第四話

綺麗だ。
長い水色の髪も大きな宝石のような瞳も制服から伸びるスラリとした手足も、全部。
それが、転入してすぐ廊下ですれ違った美少女…風丸に対する第一印象だった。




天才エースストライカーとして、小学校の頃からそこそこ有名だった俺は、自分で言うのもアレだが、女子にはかなりモテる。
どっかのアイドルオーディションに受かったという地元で有名な美少女に告白されたこともある。
ところが、俺は誰とも付き合うことはなかったし、好きという感情すら持つこともなかった。
練習で忙しかったことや母親の死などで精神的な余裕がなかったこともあるが、女というものに興味が持てなかった。


そんな俺が彼女を一目見たとき、何故か声を聞きたい、近くで顔を見たい、という衝動に駆られた。


彼女を初めて目にした日から3日後、偶然にも彼女は俺のクラスのドアの前で立ち止まっていた。
これはチャンスだと思って話しかけ、辞書を貸した。
儚いイメージとは裏腹に彼女の声は芯のあるはっきりとしたものだった。


辞書を返しに来たとき、彼女はお礼に、とキャンディを差し出してきた。
女の子らしい心遣いに柄にもなくドキッとしてしまった。
そして彼女の名字を知った。
風丸…爽やかな美しさを持つ彼女にふさわしい名前だと思った。


その後風丸と円堂のやりとりを見たわけだが(どうやら二人は知り合いだったようだ)、そこでも彼女の意外な一面を知った。
かなり中性的な(いや、むしろ男っぽいといった方がいいだろうか)話し方をするし、かなりハッキリと言いたいことを言うタイプみたいだ。
ただ、そこには乱雑さはなく、凛としたかっこよさがあった。


可憐な外見とはかなりギャップがあるな、とは感じたが、幻滅することはなかった。
むしろその逆。
俺は風丸に惹かれていた。


そして今、俺は風丸と二人きりで中庭にいる。
初めて惹かれた女子といきなり二人きりになれるなんて、俺は恋愛運には恵まれているのかもしれない。



「豪炎寺君ってさ、どこから引っ越してきたの?」
沈黙を破ったのは風丸のほうだった。

「木戸川清修ってところなんだが…わかるか?」
「ああ、あの部活動が盛んなところ?」
「そうだ。」
「へー。どうして雷門に?」
「妹が雷門病院に入院してな、すぐ見舞いに行けるようにできるだけ近いところに引っ越してきたんだ。」
「…ごめん!なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃって…」
「いや、気にしなくてもいいぞ。」
「あ…うん。そういえばヒロトから聞いたんだけど、豪炎寺君ってサッカーすごいんだって?」
「ああ、まぁな。一応木戸川に居たときも一年生でエースだったしな。」
「あの円堂相手にシュートをバンバン決めてると聞いてびっくりしたよ。今度豪炎寺君のシュート見せて。」
「ああ。…えっと、風丸。」
「ん?」
「俺のことも呼び捨てでいいぞ。あんまり君付けで呼ぶの慣れてないだろ?」
「あ、わかった?でも、呼び捨ての方が呼びやすいからよかった。じゃあこれからは豪炎寺って呼ぶね。」
呼び捨てにすることを許可したのは風丸が呼びやすそうだから、という理由もあるが、円堂やヒロトが呼び捨てにされているのを聞いてちょっと嫉妬してしまった、というのが一番の理由だ。


「円堂、遅いね。」
「ああ、そうだな。…そういえば風丸は円堂やヒロトと仲いいのか?」
「うん。円堂とは幼なじみ。それが今でも続いてて。んで、円堂を通じてヒロトとかサッカー部の部員とも仲がよくなった…て感じかな。ヒロトと仲がいいのは二年間同じクラスってのもあるけど。」
「なるほどな。」

ニコニコしながら答えてはいたが、風丸の表情が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?






「悪ぃ!遅くなった!」

円堂が全速力で駆けてきた。

「円堂、遅い!」
「悪いって!ほら、風丸。これお前の好きなプリンとジュースな。これを手に入れるのが大変だったんだからな!」
「…しょうがない、許そう。ありがとね、円堂。」

円堂と話す時の風丸の表情はとてもやわらかくて…とても美しかった。
おさななじみで気を許せる相手だから、そんな表情になるのだろうか?

俺も、風丸のそんな表情を引き出したい、と思った。