●第三話●


side:風丸


3限と4限が終わり昼休みになった。
もしかしたら豪炎寺君は教室を出て昼食を採るかもしれない、と思った私は急いで辞書を返しに行くことにした。
勘違いだったとはいえ、見知らぬ自分に辞書を貸してくれたことへの感謝の気持ちに、鞄に入っていたキャンディーを3つ4つ持ってお礼代わりに渡すことにした。


円堂の教室まで行くとすぐに、逆立った白い髪を見つけることができた。

「豪炎寺君!」
そう呼びかけると、彼は振り返り、私の方へやってきてくれた。
「辞書、ありがとう。あと、これは気持ちだけだけど…。」
そう言って私は手渡した辞書の上にキャンディを置いた。

「ああ、ありがとう。…ところで何で俺の名前を知っているんだ?」

私がいきなり名前を呼んだので驚いたのだろうか?
少し焦ったような表情でそう尋ねてきた。

「辞書の裏に名前が書いてあったから。」
「ああ、なるほどな。」「あ、私の名前教えてなかった!私は風ま…」

「豪炎寺!中庭で一緒に昼飯食おうぜ!」

名乗ろうとしたとき、聞き慣れた声が聞こえた。
声変わりこそまだだけど、少年らしい心の熱さを感じられる私の大好きな声だ。

「って…あれ?風丸?豪炎寺と知り合いなのか?」
「いや、さっき辞書を貸してくれたからお礼をしていたんだ。…あ、そうだ!円堂!お前私の辞書いつまで持っている気だ?」
いきなり声を荒げたせいか、円堂はびくっと肩を上下させ、もともとまん丸な目をさらに丸くさせた。
「…っあー!忘れてた!風丸、ちょっと待って!今返すから。」
そう言うと円堂はガサゴソと自分のロッカーを漁り始めた。
豪炎寺のロッカーとは違い、円堂のロッカーは非常にごちゃごちゃしており、時折ドサッとプリントの塊が落ちてきているのが見える。
新年度始まって3日でここまで散らかせるのはある意味才能だと思う。
もちろん悪い意味で。

「あ!あったあった!はい、風丸。サンキューな!」
ニカッと白い歯を見せて、円堂は辞書を渡してきた。
「まったく…貸したの一年の時だぞ。……って、おい、円堂!私の辞書、めちゃくちゃ折れ曲がっているんだけど!」

ロッカーで大量の荷物に押しつぶされたのだろう。
私の辞書は右上がぐにゃりと折れ曲がっていた。
「あっちゃー。風丸、ホント申し訳ない!!…そだ!風丸、今日昼飯一緒に食おうぜ。お詫びにプリンとジュース奢るから。」
「…全く、しょうがない。それで許すよ。」

本当は、もうちょっと怒りたかったが、久々に円堂と学校でお昼ご飯を食べられるチャンスだと思い、許してしまった。
相手が自分に気がないことがわかっていても一緒にいたいと思うなんて、我ながら乙女だなーなんて思ってしまう。


「じゃあ俺は購買行ってくるから、風丸と豪炎寺は先に中庭に行ってて!」
そう言って円堂は購買のある校舎へ走り出して行った。

「…フッ。」
私と円堂のやりとりを間近でみていた豪炎寺君がふと吹き出していたようだ。
「え?どうした?」
「いや…風丸って、見た目的にこう、もっと物静かなタイプだと思っていたから、あんな風に円堂と接するのが面白くてな。」
「あはは、よく言われる。自分でももっとおしとやかにした方がいいかなーなんて思うけど、小さい頃から円堂達とばっかり遊んでて、それが染みついちゃっているんだ。」
「なるほどな。でも、俺はそのままでいいと思うぜ。」
「え?」
「…っ。あ…いや、何でもない。そ…それより円堂が帰ってくる前に中庭に行かないと。」
「あ、うん。」

豪炎寺がさっさと歩き始めてしまったので、私も後ろを急いでついて行った。







照れる表現ってむずかしい!