※会話文ばかりで読みにくいかもしれません。





●第二話●


side:風丸


「よかったね。やっと円堂君から辞書返してもらえたんだね。」
職員室までプリントを取りに行く途中、ヒロトが私の手元を見てそう話しかけてきた。
「いや、それがさ、円堂がクラスメートとの話に夢中になっているみたいでさ、円堂には話しかけられなかったんだよ。」

大事なところを省いてはいるが…嘘はついていない。

「じゃあ、手に持っているその辞書は?」
「ああ、これは…その…円堂のクラスメートに勘違いされちゃってさ。」
「勘違い?」
「教室を覗いていたら、そのクラスメートがいきなり話しかけてきて…。その時‘円堂に辞書を返してもらいにきた’ってうまく伝えられなくて、ただ‘辞書’とだけ言ったら、辞書がなくて困っている子と勘違いされたみたいで、貸してくれたんだ。」
「あははは。でもその辞書を貸してくれた人、すごくいい人だね。知りあいの人?」
「いやいや、それが見たこともない人でさー。名前も知らないのに借りちゃって申し訳ないよ。」
「名前なら辞書の最後のページとかに書いてあるんじゃない?」
「あ、そっか。さすがヒロト!…えーっと…うわぁ、なんかすごい名前だな。ごう…えんじ?でいいのか?」
「豪炎寺君!そっか豪炎寺君が貸してくれたんだね。」
「え?ヒロトの知り合いなの?」
「サッカー部の新しい部員。今年から転校してきたんだ。3月には引っ越しが終わっていたみたいで、部活には春休みからちょこちょこ顔を出していたよ。」
「へぇー。あんなに目立つ髪型しているのに全然気が付かなかった。」
「春休みは長い間陸上部の合宿に行っていたからじゃない?」
「そういえばそうだったね。」

そんな会話をしていくうちにもう職員室までたどり着いていた。

「僕が全部持つよ。」

先生から渡されたプリントは結構な量があったにも関わらず、ヒロトはそう言って全部のプリントを持ち上げた。

「いや、半分持つよ。私だって日直だし。」
「だって、風丸さんは辞書を持っているでしょ?それに風丸さんみたいな美人にこんな重たいプリント持たせたら、僕の評判が悪くなっちゃうよ。」

…さすが雷門中で一番モテる男、基山ヒロト。
こんなセリフを中学二年生にしてサラっと吐いてしまう上に、プリントもしっかり全部持って運んでいる。
いったい何人の女の子を泣かせて行くんだろうと思うと、将来がとても不安になる。

「またそーゆーことを…。でも、私だけ何も持たないってのは…。」
「いいよ。気にしないで!」

ヒロトはにっこり笑ってそう言った。
小さい頃から施設で身近に女の子がいる生活をしていたからだろうか?
ヒロトは本当に女の子の扱いに慣れている。

「ところでヒロト、さっきの豪炎寺君ってどんな人?」
「豪炎寺君はねー、まだ馴染めていないのもあると思うけど、あんまり喋らない。でもね根は優しいと思うよ。あ、サッカーはとんでもなく強いね。あの円堂君相手に強力なシュートをバンバン決めちゃうんだ。」
「へー。ヒロトがそこまで言うなら、相当凄い人なんだね、豪炎寺君って。」
「うん。今度また試合見においでよ。風丸さんが応援に来てくれたらみんな絶対に喜ぶよ。」
「本当?じゃあ、部活が空いている時に見に行くかな。」


結局プリントは教室に帰るまで、全部ヒロトが持ってくれた。
ヒロトにありがとうと告げた後、私は自分の席に戻った。

次の授業は歴史なので持っていた辞書をとりあえずカバンへ直す。

…豪炎寺君か。
見た目からして、いかにもスポーツができそうではあったが、円堂も防げないようなシュートをするってことは本当に凄いプレイヤーなんだろうな。
ちょっと見てみたい…かも。


これまでに何度か円堂達の試合を見に行ったことがある。
サッカー観戦が好きってのもあるけど、ほとんどの目的は思い人である円堂を応援するためであった。

そういえば、円堂以外のためにサッカーが見たいなんて思ったのは初めてだな、なんて思った瞬間に
「今から話すところはテストに出すからしっかり聞いておくよーに!」
という担任教師の声が聞こえたので、私は授業に集中することにした。
















紳士的でモテ男なヒロトを書こうとした結果、ただの胡散臭い男になった件。