■旅人×英雄

セフィロスがそれを耳障りだと遮るまで、バッツはその唄を口ずさんだ。
その英雄は誰だったか
その唄は誰の為のものなのか
人が英雄を謳う時分に、ただただ居心地の悪さが背中を這う。セフィロスの人間らしい最後の感情のひとつがそれ。寧ろ彼を人間らしいと形容する事自体本当は可笑しいのだが。

「ちょっ、タンマ!何でいきなり本気!?」
「失せろ」
「セフィロス!聞けよ!」
「お前と話をするつもりはない」

躊躇ない居合いにバッツは慌てて彼の間合いから飛び退いた。足元の岩場は真っ二つに割れて無断にも砕け散る。視線を落とせば星の底へと落ちていく破片はライフストリームの光の中へと消えていった。バッツは咄嗟片手にバスターソードを握りしめセフィロスの一太刀を受け流す。重い大剣を盾の代わりにしながら攻撃をひたすら避けることに徹するが、反撃はしない。
セフィロスがバッツに対して今まで興味や関心を抱く事が全く無かった。
元々執着する存在がここには無く、異世界でのセフィロスの存在自体浮ついたものになっていた。それは我の強いカオスの戦士全員に言える事で、そもそもこの神々の闘争に巻き込まれた事が不本意
己の目的を果たす野望を企てるよりも前に彼はこの世界に何の興味も関心も無い。
母恋しや、と記憶を取り戻したセフィロスはこの世界の全てが馬鹿らしくなった

「なあ、」

思考を戻せばバッツは苦笑を噛み締めて問い掛ける。
かつての英雄の剣捌きに余裕は無いが、防戦を続けながら、どうにか会話の糸口を探る。戦うべき立場ではあったけれど、言葉無しに殺し合うなんて勿体ない。バッツはそう思った。それだけだった。
理性的な性格を形成しているようで、セフィロスの本質はやはり得体の知れない。
己を語らないし、語らせない。それがひどくもどかしく思った。

バッツは口ずさむ。その唄は仲間たちを讃え決起させるものだったが、セフィロスの平静を崩すきっかけには十分だった。
宿敵以外眼中に無かった彼は他の戦士と戦う事に消極的で、ましてや自分を感情的に罵る状況にバッツは喉奥で笑いを噛み締める。
歪んだこの愉悦が恋というには浅く、悪意と言うには甘かった。

「俺が歌うのを止めたら、話聞いてくれるか?」
「貴様と話したところで何になる」
「俺は嬉しいけど」
「くだらん」

一蹴されてそれでもへらへらと笑うバッツにセフィロスは正宗を振る腕を止めた。長い刃先がゆっくりと地面へ下ろされる。
この男に関わった時点で自分は負けていたのだ。



---
20111229
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -