■義士×暴君
歯が軋むほど噛み締めた皇帝の紫の唇に鮮やかなな血の色がこびりつく。フリオニールは血を拭う事もしなかった。ふらふらと虚ろな瞳をちらつかせながら彼を見下ろす。
組み敷かれた暴君は嘲笑も罵声を浴びせることも無かった。ただ目の前の操り人形となった男を今は見上げるだけ。
マティウスが人間に恋い焦がれる瞬間など人生の何処にもなかったが、彼が仇である自分に欲情する姿は喉奥から笑いが込み上げるほど滑稽で、下僕にするには愛しいものだった。
この歪んだ心を恋だの愛だなどと歌う必要はない。世界には暴君が一人いるだけなのだから。
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20111216