■012:夢想と魔女
※ティーダにスピラの記憶があるという半分パラレル


時計塔には魔女がいる。
グロテスクな装飾とトラップだらけのパンデモニウムと違って彼女の城は数少ないティーダのお気に入りの場所のひとつ。
ぐるぐると回る歯車や薄暗い空間はやはり気味が悪かったけれど、他のダンジョンよりは居心地がよかった。
アルティミシアもティーダの事を疎ましく思うことはあっても突き放したりはしない。
ティーダ自身のあっけらかんとした明るい性格と打算的でない態度が気に入ったのか、城には自由に行き来させている。

ティーダは時計塔の螺旋階段の淵で頭を抱えて座り込んでいた。

「貴方が考え込むなんて、今日は雪でも降るのかしら」
「アルティミシア!」

振り返るとそこには魔女がいた。呼び出したつもりもなかったが、バツが悪い。
断りもなく入り込むのはいつものことだったが、ここは元々彼女の城を模した場所なのだから彼女がここにいるのは必然。そしてティーダは今日、アルティミシアにわざわざ会いに来たのだった。

「私に何か?」
「…うーん、用っていうか」
「歯切れが悪いですね」

いつも平気な顔で空気を読まない発言をする彼が言い掛けて言わないというのは何とも気持ち悪い事か。首を傾げるアルティミシアにティーダは周りをキョロキョロと見回し、人気がないのを確認するとおずおずと口を開いた。

「あのさ、誰にも言わないでくれよ?」
「何ですか、勿体ぶって」

「俺がコスモスとカオスの闘いに巻き込まれたのはわかった」
「…はい」
「俺たちはカオス側の戦士で、コスモスの戦士を倒すんだよな?」
「そうですね」

「…俺、コスモスになりたいんだけど駄目かな」

一瞬、その場が凍り付いたのがティーダでもわかった。アルティミシアの殺気が呆れへと変化するのは早かったが、ティーダは本気でその時殺されると感じた。それくらいの発言をしたのだという認識も持っている。

「なかなか面白いことを言いますね、自ら死に急ぐのと変わりませんよ。それは」

「う、やっぱり…」

「自分の立場がわかっていないのと同じですよ。私達は喚ばれた身なのですから」

アルティミシアは自分たちを神々の駒に過ぎないと言った。個々が強大な力を持つ戦士でありながら意志を持つことは許されない、しかしコスモスを倒すという大義に隠れて各々の欲望を満たそうとしている。この繰り返す輪廻で生き残るには彼らカオスの戦士たちの《敵》にならないということが最低限の条件。ティーダは今、そんな脅威からカオスであるから守られている。

「私にそんなことを言ってどうするつもりだったの?」
「だってカオス本人には言えないッスよ…」

私がいなかったら混沌の神に直談判したに違いない。呆れてものも言えない。彼女とて、ティーダがカオスを裏切るようであれば何のためらいもなく殺せるような残忍さを持ち合わせていた。だが、その前に一つ問いたい。

「何故そのように考えたのですか」

「…向こうに知ってる奴がいるんだ。オヤジじゃなくて、元の世界の知り合いでさ。その子とは戦いたくないんだ!」

ティーダの眼差しは揺るがない。なかなか扱いやすい坊やだとばかり思っていたけれど、一度決めたことに意志は固く、融通がきかない部分も彼は持ち合わせていた。それがティーダの強さであり儚さ。アルティミシアも心当たりがあったその娘は、確か召喚士。

「ああ、好いているのですか、その娘を」
「なっ!」

カァーッと一気に頭に血がのぼったティーダにつられてアルティミシアも笑みがこぼれる。やはり単純で、それでいて弱みを握りやすい哀れで愛しい子。
アルティミシアは座り込んだティーダの頬に手を寄せる。彼女は柔らかい表情で微笑んだがティーダは魔女の体温のない指先にゾッとした。

「でも無理な相談です、忘れなさい」
「…わかった」
それ以上の追及も発言も許されないのだろう。ティーダは素直に頷く。
それでも彼が彼女と戦わないという誓いはきっと守られる。

「私も今日のことは忘れてあげましょう」
彼女がティーダを生かしたのはまだ彼が利用できると直感したからだった。理由などそれしかない。
いくらアルティミシアが彼を気に入っていたとしても、ティーダのそれは許されるものではない。それにその願いを叶えるのは神々にしか他ならない。
そしておとぎ話の魔女でも彼女は悪い方の魔女だった。


「ティーダ」

凛とした声に振り向く。歯車のギシギシと回る音は絶えず城中に響いていた。あきらめに背を向けたティーダを呼び止める。
アルティミシアは自分が唯一固執するあの青年と彼を重ねていた。

「貴方がもし、この戦いに最後まで生き残るのであれば、貴方の為に時間を止めてあげましょう」
それが最後の魔女の愛。
ティーダの正体をアルティミシアは知っていた。

「時間を操っても貴方自身が幻である現実は消えませんが」

「そうッスね」

「貴方は消えたくはないのでしょう。本当はこの世界にいることも悪くないと思っている」

「…でも時を止めたらつまんないッスよ」



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20111219
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