■義士と騎士と兵士と夢想

最終決戦前夜
カオスを倒せば、この世界は救われるのだろうか。俺たちは元の世界に帰れるのだろうか。
最後の最後だと言うのにどんなに仲が良くなっても、自分は祈り子が夢見る存在だなんて言えなかった。そもそもどう説明したらいいかわからなかったし、皆と親しくなっていく内にどんどん言いづらくなって。
故郷のザナルカンドはそれすら本当は存在しなくて、戦うようになったのはスピラに来てからだった。戦闘経験の浅さを笑って誤魔化してきた事もある。今では遠い過去のようだけど俺にとっては大事な記憶たち。
この世界に喚ばれてたのは不思議だった。
色んな世界から喚ばれて来た仲間たちがいる。そんな中、俺は何故喚ばれたのか。
在るべきものでは無かった俺にはもう、帰る場所が無い。

フリオニールはよく故郷のことを話してくれた。育ててくれた両親が帝国軍に殺された事も、凄く辛そうだったけど教えてくれた。皇帝は仲間や家族を奪った仇なんだって。
フリオニールの憎しみや悲しみはきっと想像出来ないくらい心の奥底にある。俺は未だ慰める言葉が見つからなかった。

セシルはゴルベーザが血の繋がった兄弟だって事を隠さなかった。カオスの戦士として召喚されているけど、こっちにアドバイスくれたり戦いを避けたり、ゴルベーザが悪い人じゃないって事は話してればすぐにわかったけど、だから一層この世界で二人が戦うのが理解出来なかった。
肝心な事をセシルは教えてくれない。

クラウドは自分の事は喋らない。
セフィロスとは長い因縁がある。それだけ。あっちはあっちでクラウドの事を裏切り者だの人形だのよくわからない事言ってばっかしで二人の関係も戦う理由もよくわからない。ただセフィロスは執拗にクラウドに戦いを迫る。クラウドはいつも辛そうに戦ってた。

「嫌なんだクラウドがそんな顔するの。セシルが一人で悩むのも、フリオニールが俺たちに気持ちをぶつけてこないのも」

「そうだね、でもそれは君も同じだと思うよ」

セシルには珍しく責めるような口調だった。四人は誰も視線を合わせようとはしない。
だんまりを決めているクラウドと、フリオニールは何か言いたそうに唇を噛み締める。

「…本当に言いたい事が言えないのが苦しくてしょうがないんだ。言葉にするのが怖くて」

湖はひどく穏やかに凪いでいた。まるで時間が止まったかのように4人の前に横たわる。空は昼も夜も赤く燃えて破滅へと着実に向かっていたけれどこの世界は美しい。
今この時が限られたものだと思えば、すべてが愛しくてたまらない。
命あるものはいつか必ず消えるけれど、今はもう自分には帰る場所がないと思い出してしまった。この時が自分の最後の居場所なのかもしれない。
消えるのは怖くなかった。実感もないし
俺がいなくなっても、俺の生きた証は消えないと思うから、それよりも、もっともっと

「俺、皆と会えなくなるの嫌かもしれない」

弱々しく伸ばした手をクラウドは強く握り締めてくれた。じわじわと熱くなる目頭はもう自分では制御出来ない。

「皆が帰ったら俺のこと思い出して。忘れないで」

崩壊する世界で生きていれば必ずまた会えるよ、なんて軽々しく言えない。俺が泣きだすとフリオニールは笑った。笑って俺の頭を乱暴に撫でた。
相手の事を知れば知る程別れは辛くなる。
皆そのことを悲しいほど本能的に知っていた。全てを語らないのは心配させたくなかったから。

「泣き虫だね、ティーダは…」
泣かない3人の代わりに俺はみっともなくたくさん泣いた。涙を拭いてセシルは優しく抱き締めてくれる。

最後なら、全部話してしまおう
この思いも何もかも



---
20111114

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -