■012:少年
みんなは一体何処に行ったのだろう。
ひずみで仲間とはぐれてからかなり時間が経つ。山の間からは太陽が沈んでいくのが見えた。日が暮れてしまえば身動きが取れなくなる。敵の奇襲に合うかもしれない。
少年もまたイミテーションの大群に押され、やむを得なく退路を絶たれていた。
見渡すかぎり見慣れない風景に、この場所がコスモスの本拠地からかなり離れた場所ということだけはわかる。
少年は近くにあった洞穴に朝まで身を潜める事にした。
考えるのはこの世界で出会った仲間のことばかりであった。光の戦士同様、彼もまた未だ自分の名前さえ思い出せないでいる。だからこそこの世界でのつながりを大事にしていたし、尊く感じていた。
記憶が思い出せない以上、少年には目の前の仲間がとても大きな存在だった
「(…全く、もう少しまとまって行動してほしいよ)」
はぐれても、スコールはきっと一人でも冷静に切り抜けられる。
ラグナも何だかんだいって大人なんだから。多分大丈夫だろう。道にさえ迷ってなければいいのだけど、きっとそれは無理だ。
…ヴァンは、どうしているだろうか
自分を兄弟だと、言い続けた彼は今何処で何をしているのだろう。ラグナよりも気の抜けた性格だし、カオスの奴らと遭遇してもいつもどうりなんだろうか。
油断して敵に捕まったりしてないだろうか
ちゃんと戦えているのだろうか、
予想することは出来る。
きっと皆はぐれた仲間を同じように探してるに違いない
「僕が…探してあげないとね」
少年は剣を握り締めた。
洞穴の外でイミテーションの気配がする。体に傷を負っているわけではなかったが、疲労は既にピークに達していた。少年が場所を動かなかったのはその所為だった。
そっと立ち上がり入り口に立てば、空賊の彼を模した姿をする人形が現れた
「偽物なんかに負けやしないよ」
今度会ったら僕のほうが強いってあいつに言い聞かせてやるんだ。
自分を子供扱いしたことを後悔させてやる。
だから僕は負けない。
洞穴の外には他にも数えきれないほどのイミテーションの波がすぐそこまで押し寄せていた。しかし一人の孤独な騎士が逃げることはなかった。
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20110723