■012:大樹と少女

植物が焼ける臭いでもなく、人が焼ける臭いでもない。瓦礫の塔は息苦しいほどに汚れた空気がその空間を覆っている。錆びた金属片と何処からかこぼれた黒いオイルが地面を汚していた。
道化に操られた少女を連れていく為、立ち寄ったとはいえ相変わらず得体の知れない場所だった。
そこに小さく、まるで人形のように少女は静かに座り込んでいた。弱々しく自分の肩を抱き締める。瞳に光は映らない。

いくら声をかけても無反応な少女に痺れを切らし腕を掴み上げるとようやく焦点がこちらへと向けられた。

「怪我をしているわけではなかろう。自分の足で歩かんか」

ティナは手を取られるままふらつきながらも立ち上がった。細い手足に華奢な体は今から戦場に駆り出される戦士とは思えない出で立ちである。
額に付けられたあやつりの輪はケフカの命令しか受け付けない仕組みになっていた。元々あやつのやる事に干渉することは無かったが、こうも第三者が扱いにくいのは問題でしかない。外すことは容易だったが、そうすればあやつが煩い。
少女に破壊の意志があるのなら、こんなものは必要無いはずだが、


「…苦しいの?」

唐突に向けられる瞳と抑揚のない言葉と疑問符。喋らないかとばかり思っていたがそうではないようだ。しかしその顔にやはり表情はない。

「苦しんでいるだと?」
私が。

少女は頷きもせずまっすぐ私を見つめていた。伸ばされた手がこちらへと向けられたが少女は私に触れることはない。
彼女が息をするたび肺が膨らみ、心臓は同じく脈打つ。人間はどんなに汚い空気であろうとそこにある酸素を取り込む。でなければ窒息してしまう。

「この場所は好かん。長居は無用だ」
「私を連れてってくれるの」

彼女と早く空の下へ、早く外の世界へ。
少女に空は似合わない。それは自分とて同じ。破壊者が自然を愛するなどなんと矛盾したことだろうか。
いや、私は汚れた世界を壊したい。全てあるべき存在に返したかったのだ



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20111102


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