シンを倒した後、祈り子が夢を見るのを止め消える存在だったはずのティーダが再び目を覚ました場所は見知らぬ海だった。水面から顔を出すと、見たことのない景色が広がっていた。遠くの山の向こうに大きな建物が見える。異世界に飛ばされる経験は初めてではないが自分が存在出来る場所であるなら、もしかしてここは異界なのだろうかと首を捻る。
けれど到底スピラでは禁止されているような機械の乗り物が舗装された道を走っていた。夢のザナルカンドとも様子が違う。

海岸になんとか泳いでたどり着いたティーダは小さな森に迷い込んだ。
自分の知る世界、スピラでもザナルカンドでも異界でもない景色。イミテーションを見かけないとすると『あの世界』とはまた違う別の世界へと飛ばされてしまったようだ。
二度あることは三度あるという。
森を一人で孤独にさ迷いながら落胆した。
考えたってどうしようもない。また喚ばれたのにはきっと理由があるのだろう。
とにかくこの世界の住人に会ってみなければ、話にならない。

ティーダがそうして遠くに見える建物を目指しながら歩いていると森の奥深くで運悪く大型肉食獣のアルケオダイノスに遭遇した。
元々剣も握ったことがない戦いのド素人だった彼だが、スピラで培った経験と大型モンスターへのトラウマからティーダは身の危険を感じ、瞬時にとんずらよろしくで一心不乱に逃げ出した。
その後不幸中の幸いにバラムガーデンのとあるSeeDによって発見され、甲斐甲斐しく保健室に運ばれた。スコールと出会えたのは奇跡に近い。

「これが俺の物語ッ…」
「で、これからどうするんだ?」

スコールはティーダの話に呆れる事もなかったが、突っ込んでもくれなかった。
彼はティーダを遮り、中継が終わるのを見計らってパネルを操作しディスプレイの電源を落とした。

「確かな核心はないが、いくつかの世界が融合していることは確認できた。お前のいたスピラも存在するかもしれない」

スコールの世界は機械文明が発達している。世界各地を映像に残し状況が把握出来たのも全部科学の力の賜物だった。
そのおかげでティーダも世界が融合した事実を知った。
科学や文明の進歩は機械仕掛けの故郷、ザナルカンドを思い出す。


「飛空艇で世界の端に飛べば、また再現なく大地が続いてる。かと思えば空に浮遊する大陸も見つかった」

スコールの世界は元々純粋に魔法が使えるのは魔女だけ。らしい。それがまるでおとぎ話のような世界に囲まれて混乱しているんだろう。
科学の力を越える何らかの力が干渉している。スコールが頭を抱える気持ちもよくわかる。まるで俺が夢のザナルカンドから抜け出した時のような…知らない世界に放り出される感じ。

「俺探してみるよ、スピラを!」
俺がここにいるということはきっとスピラも存在する。確証はないが、今は自分がここにいる理由が気がかりだった。

「徒歩でか?」
「あっ…」
「それにいきなり知らない土地をしらみつぶしに行くのか?ガーデンの外は出没するモンスターもお前が知らないものばかりだぞ」
「う、確かに」
またあんなおっかないモンスターに追い掛け回されるのは嫌だ。ユウナとの感動の再会への道のりは遠く険しい。

「…スコールも一緒に、」
「悪いが、俺は他にやることがある」
救いの手を求めて振り返ると間髪入れずに断られた。一気にやる気をなくしてテーブルに伏せるとスコールは俺の目の前に何かの鍵を差し出した。

「…まあ事情が事情だ。俺たちが使ってる飛空艇を使え」
「いいのか!?」
「しょうがないさ、けどな…」
スコールに持っていけと渡された何の変哲もない金属性のシンプルな鍵を眺める。ドアにつけるような手のひらに収まるサイズのこれが、まさか飛空艇を動かす為の鍵!?
とりあえずズボンのポケットにそれを押し込むと同時に、廊下でバタバタと走る足音が聞こえた。

「はんちょー!!!!」
女の子の高い叫び声と一緒に部屋のドアが開く。というか鍵を掛けないなんてスコールにしては無用心じゃないのか。などと思っている内にその子が中まで乗り込んできた。

「おっ、迷子クン元気そうじゃん〜!」
「…セルフィ・ティルミット、こっちはティーダだ。お前をガーデンまで運んだのが、セルフィ。俺と同じSeeDだ」



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