■英雄中心混沌勢※ギャグ

神々の闘争という名の長きに渡る輪廻、浄化を受けることなく生き残るカオスの戦士たちのは敗北するコスモスの戦士と違い、大半がこの世界で記憶を引き継いでいた。
何度も繰り返す闘い。それのみを目的としているこの世界は不必要なものを削って洗練されている。しかし…

「暇だ」
セフィロスは舌打ちするように吐き捨てた。その場に居合わせたガーランドは思わず耳を疑う。
カオス神殿の砕けた柱の上に座っていた仏頂面の英雄はさも退屈そうに足を組み腕を組み苛立ちに体を揺らしていた。

皇帝とアルティミシアの企てた策を聞く為に神殿に集まったカオスの戦士たち。
打倒コスモスという大義名分はあったが所詮カオスに選ばれた者。各々の目的や私怨を遂げる為に動いている。全員の足並みが揃うことはほぼ無い。
セフィロスも他人に耳を貸さない者の一人だった。

「暇と思える時間があるなら己の宿敵と剣を交えればよいではないか…」
ガーランドは混沌の神カオス、唯一の良き理解者である。誰よりも忠義を尽くし、戦場では先陣を切り戦士たちの指揮を取る。
しかし問題児だらけのカオス勢に振り回されるばかりの毎日に彼の胃痛が治まる事はない。
兜の下でガーランドはセフィロスを恨めしく睨んだ。

「お前はこの世界で何度も同じように闘いを繰り返し、よく飽きないものだな」
「……」

お 前 が 言 う な
ガーランドは思った。しかし決して口には出さなかった。
自分たちの世界で戦うだけでは飽き足らず、様々な異世界に出張してまで死闘を続ける、クラウドとセフィロスもまた大いなる意志スクエニに捕まった輪廻の囚われ人なのかもしれない。

息を吐くセフィロスにカッとなりそうだったガーランドも不毛な言い争いを避ける為にと押し黙る。決して口喧嘩じゃ勝てないからとかそういう理由じゃない。たぶん。
溜め息を吐きたいのはこちらの方だ。

そうこうしている内に神殿に集まったカオスの戦士たちが騒ぎだした。
召集をかけた張本人である皇帝やアルティミシアと違って、その外の面々は明らかにやる気が見て取れない。
最初から作戦のことなど興味がない暗闇の雲は一方的にアルティミシアに話し掛け、目と目が合うや否や喧嘩を始めたクジャとケフカ、それを遠くで眺めながらファファファ笑うエクスデス。あくびを隠さないジェクト。
唯一ゴルベーザだけは仁王立ちで皇帝の話に耳を傾けているがコスモス側に情報を横流しする事は目に見えている。

セフィロスは戦士たちを様子を見回した後、皇帝に視線を移すとふと何かを思い出したように立ち上がりツカツカと早足で歩み寄った。

「魔導書はどうした」
「…開口一番にそれか、もう少し脈絡のある会話をしたいものだな」
「セフィロス、どうしたのです」

唐突な英雄の行動に皇帝の横にいたアルティミシアは不審に眉を寄せる。話し掛けられた本人の皇帝は彼の質問に心当たりがあるらしく慣れた様子で受け応えている。

「生憎この間貴様に渡したもので全部だ」
「…何故あなたが魔導書を?」
「暇潰しだ」

例えセフィロスが皇帝の魔導書を読んだとしても魔法が身につく事はない。実質的に心身の能力強化は望めない。単に彼の知識欲を満たすだけの行為だ。
コスモスと戦わず堂々と暇潰し宣言する彼にアルティミシアは一瞬思考がフリーズしかける。皇帝も皇帝だ。『わかっていて書物を貸したのか』と、目線で咎めると『最終的には刃物を突き立てられ脅された』と苦渋に滲む顔が向けられる。

「魔女も魔導書は読むのか」
「いいえ…。でも古い書物なら私の城にありますが」
あっ!と振り返る皇帝の顔には『しまった!』と書かれている。アルティミシアの一言に俄然興味を示したセフィロスは面白そうに目を細める。

「ほう…興味深いな」
「でもあなたには読めないと思いますが」
「しかしお前は読めるんだな?」

まさかこの男、私に全部読ませるつもりなのかとアルティミシアが気付いた時にはもう遅い。リユニオンしたかの如く目を爛々と輝かせたセフィロスがアルティミシア城を目指して歩きだしていた。





「…何故お前らも来た」

アルティミシア城は広い。とにかく広くて複雑な構造になっている。しかし城内にある宝物庫の一室は10人が肩を並べるには狭過ぎる。

「ファファファ、お前が興味を持つ姿が物珍しくての。着いてきたのじゃ」
「ぼくちんも!楽しいこと独り占めするなんてズル〜〜イ!」
愉快痛快好奇心が止まらない暗闇の雲とイタズラもとい嫌がらせ大好きなケフカ。

「僕もそのオバサンに用事があったんだよ」
「クジャ…後で私の部屋に来なさい」
クジャは別件で来たというが、相変わらずの口の悪さにアルティミシアの額に青筋が浮かぶ。

「む?全員来いと言ったのはジェクト、お主だろう」
「えぇっ!?俺は金ピカの皇帝サマに全員集合ーっ!て言われた後だったから野郎に着いてきただけだぜ?」
勘違いしたエクスデスと他人の話を聞かないジェクトに挟まれて皇帝は眉間のしわが深くなる。

「そんなことを言った覚えはない。しかし変わらず全員が集まるとは都合が良い。今から作戦会議をひr(ry)」
「しかっし本を読んで時間を潰したいだなんて、変わってるね!ここにはなかなか立派なワインセラーもあるんだよ?」

皇帝を遮るクジャの一言に反応したのはいかにも大酒飲みのジェクト。
「オイオイそらぁ本当か!?」
「はい。私の魔導の力を持ってすれば何年もの熟成されたワインがいただけます」
「しかしこやつに酒は駄目だぞ、アルティミシア」
傍観していたゴルベーザがすかさず止めに入った。コスモスに身内がいるもの同士気が合う二人は他の戦士には隠れては晩酌を楽しむことがあったが、ジェクトの酒癖の悪さはお墨付きである。

「こまけぇこと気にすんなよ!」
「「「………」」」
「…わかったわかった!皆して睨むんじゃねぇ」

気を取り直し、アルティミシアは厳重に鍵のかけられた宝箱から一冊の本を取り出した。

「セフィロス、これが欲しいのでしょう?」
差し出したのは妙に薄く表面はツルツルと加工された…およそセフィロスの世界でも見られる、それはまるで雑誌のようなものだった。

「これは…」
試しにパラパラとページをめくるとぎっしり並べられた文字と鮮明な武器の写真。
表紙を改めて確認する。派手な剣の上に、意味は全くわからないが煽るような文字踊る。セフィロスは一度本を閉じた。…武器だと?

「月刊武器創刊号です」
魔女の口からなんとも似合わない言葉が出てくる。
「他には格闘王、オカルトファン、あとはペット通信ですね」

「…ペット通信」
続けざまに差し出された雑誌の表紙にはなんとも愛くるしいカメラ目線のシェパードで飾られている。

「もしかして猫派でしたか?」
「…アルティミシア」
「冗談です」

魔女のいる世界といえば漠然と魔法が発達したものを想像しがちだが、彼女とスコールの世界は元々セフィロスの星よりも近未来的だった。

「一般的な大衆娯楽雑誌です。まあこれは私の時代のものではなく、獅子のものですが」
「あるのはこれで全部か?」
「はい」
「そうか…」

言いだしたからには受け取る。
受け取るが、この脱力感はなんだ。セフィロスの輝いていた瞳が一気に曇る。
確かに(未来から来た)アルティミシアにとっては古い書物だ。
これを読んだところで身につく知識といえば彼女たちの世界では一般的にペットと飼い主が協力して戦い、敵に犬を投げつけるなんてことが日常茶飯事だという事ぐらいだ。

ボールを投げつける青年ならコスモスに、岩を投げつける男ならコスモスにいたが、犬は愛玩する生き物ではなかったか。これが異文化というのか。

「これで満足しました?」
「満足したなら宿敵と戦ってきてはどうだ?」
内心笑いが止まらない皇帝がニヤニヤと顔を歪めて煽ってくる。

「のう、セフィロス。もしかしてお前も犬と共に戦いたかったのか?」
暗闇の雲が背後から覗き込んでくる。

「残念ですが犬っころはこの世界にいませ〜ん!代わりにモーグリなんか投げつけたらどうです?モーグリ蹴り付けてくる輩もいるコトですし!!」
ケフカの言動に9人の視線が一気にジェクトへと注がれた。

「ジェクトのせがれか」
「ああ。FFのマスコット的存在であるあれを蹴り付けるのとあまり変わらんな」
あれは関心しないと頷くゴルベーザとガーランド。例え同意でやってるとしても、敵もあの行為は痛々しく思う。

「んだよ俺が教えたんじゃねぇーぞ!?」
「そんなことはわかっている」
我に返ったセフィロスがやっとでジェクトに突っ込む。しかしこれしきの事スルー出来ないとは少なからず混乱しているのかもしれない。

「大体そんなに暇ならよ、あの兄ちゃんと戦ってくりゃあいいじゃねぇか」
むしろ俺様とブリッツでもするか?ん?
ハッハッハッ!と盛大に笑い飛ばすジェクトにセフィロスはとうとう正宗の柄に手を掛けた。

沸き上がるこの欝憤をどうしてくれよう。
その数時間後左手に正宗を握り、右手にはモーグリを握り締めたセフィロスがコスモスの陣営に現れたという…。



---
20111029

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -