■英雄と兵士


目覚めれば知らない世界にいて、自分の記憶は一切無かった。背中に担いでいた大剣は見覚えはある。戦いに使っていたものだ。他には何も思い出せない。
自分自身の名前は思い出せても、何処にいて何をしていたのかわからない。この世界の神カオスは自分に戦士としての使命を告げはしたが、他には何も教えてはくれなかった。


「あんたも、カオスの戦士か?」

目覚めて、ほんの少し歩いた場所で初めて人と出会った。薄暗い穴のような絶壁は奥底から淡い光が幾重も取り巻いている。不思議な場所ではあったが、何故か見覚えのあるような空間だった。
星の体内にいたのは長い刀を持つ剣士。
黒いコートを着た男が振り返ると長い銀髪がゆらりと揺れる。
男は俺を見て驚いたように少し目を見開き、あからさまに殺気をこちらに向けてきた。

「…俺の敵か?」

「今は違うようだ。この世界ではな」

「あんた、俺を知っているのか!?」

コスモスの者かと思ったが、違うと首を振る。しかし様子がおかしい。
元の世界で面識があった人間だったのだろうか。言葉を多くは語ろうとしない相手に俺は酷く苛々した。自分は一体誰で、目の前の男は何者なんだ。

「…哀れだな」

「何?」

「ここでお前を殺せばどうなるか、興味深い」

冷えた微笑と共に刀を構えた相手に、自分も剣を握った。戦闘の感覚だけは手に馴染んでいた。自分の中の何かが警戒しろと早鐘を鳴らしている。

「何故あんたと戦わなければならない!?」

「理由など、あとでどうにでもなる」

疾風のように飛んでくる居合いをバスターソードで弾き返し、飛び込んで距離を詰め、体重をかけて剣を振り下ろせば、真下に立つセフィロスは正宗を右手に添えて受け止めた。
シールドのような魔力が衝撃の反動と共に剣を伝わる。握る手のひらがビリビリと痺れた。
見下ろした目線には青緑の瞳の細長い猫のような瞳孔と銀色の髪が揺れる。狂気に満ちたその顔が俺を睨み付け、その男はゆっくりと顔を上げた。

「ッ!」

まるで記憶の影とダブるように見覚えのある光景。俺はこの男を知っている。
あの刀から繰り出される風を切るような太刀筋も、何度も戦ってきた相手だったはず
冷たい表情をした過去の英雄、
いや、今まで何故忘れていたのか。
頭の隅にあった暗いもやはくっきりと形になり記憶は元からあったかのように再生された。脳裏に刻まれたあの、

「…思い出したか、クラウド」
「セフィロス!」

クックッと笑いセフィロスは俺の剣を弾くと刀を構えなおし、正宗がこちらへ向けられる。

「さあ、殺し合おうか」



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20110718



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