■英雄と夢想

「セフィロス、俺のこと元の世界に還っても忘れないでくれよ?」
何処か影のある青年だと思っていた。

「…何故俺にそんなことを」
いや、この世界に喚ばれた戦士たちはみな何か得体の知れないものを抱えて戦っている。明るく振る舞う笑顔の裏に潜むものの正体を垣間見れば、目の前の少年もいつもより酷く大人びて見えた。

「皆に言ってんだ。
皆が俺のことを覚えててくれることが俺が生きた証なんッスよ」
「…まるで死にに行くような言い方だな」

戦場では弱者が強者の圧倒的な力を見せ付けられ、生きながらも死を悟る瞬間がある。
それでも死の恐怖から最後まで全力で抗う者も入れば、なりふり構わず命乞いする者、そして無抵抗のまま静かに死んでいく者がいる。
ティーダは俺が見てきた人間たちのどの顔とも違った。穏やかに笑い、場違いなほど希望に満ちていた。

「カオスには絶対勝つ!
…でもカオスを倒して皆元の世界に帰ったら、もう二度と会えないと思うし。セフィロスも」

山の輪郭を夕日がなぞっていた。風は止み、凪いだ湖はまるで時が止まったかのように静かにその場所に有り続けている。鏡のように赤く染まった空を映し出していた。

「…覚えておこう」

彼が湖に足を踏み入れずに立ち止まる。
ティーダは少し驚いたように振り返った。
彼が飛び込んでしまうのを止めたくて言ったのか、それとも本心から出た言葉なのか。

「セフィロス…!」

呟いた瞬間、パッと顔を輝かせて飛び付いてきたティーダをひらりと避けた。



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20111025


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