■妖魔と魔女
あの光るものはなんじゃと無邪気に問う横顔は子供そのもの。好奇心を包み隠さず、あちこちに向ける暗闇の雲に付き合わされるアルティミシアは頭が痛くなる。
二人は月の渓谷にいた。昼夜問わず満点の星空を見ることが出来る場所は暗闇から生まれた妖魔には物珍しい光景だったのだろう。
そもそも空間の捻れ、崩壊を辿るこの世界には昼夜の概念が希薄だった。
「あの空に星は実際には存在しません。この空間もゴルベーザがいた世界を似せて造ったまがい物です」
「ゴルベーザの世界はえらく殺風景なのだな」
「…厳密に言えば、彼らが住んでいた世界ではありません。彼らの先祖が故郷に似せて造ったという星です」
「それではこの場所は偽物の偽物ということか?」
岩場に生えた水晶や黒に溶け込んだ空に浮かぶ星の光は美しく、渓谷は静かにそこにあった。二人は眺める。
「のうアルティミシア。偽物とは何だ?」
この世界は確かに存在し、私たちの記憶に刻まれる。触れて、見ることが出来る。
こうやって似せものだと知らなければ本物と何ら変わりない。
「本物とは何だ?わしらとあの人形たちに何の違いがある?」
「イミテーションには意志がありません」
「ではそもそもわしらとあやつらは違う存在。あれの一つ一つが本物ということだな」
「…何が言いたいのです?」
「例えわしらもそうやって偽物として作り出された存在でも本物には違いないということだ」
儚くとも。
妖魔の微笑み、魔女は囁いた。
それを知るすべは無く、我々はただ神々の駒に過ぎない。それだけが真実なのだと。
指先には感触がある。
空に浮かぶ星たちは美しかった。
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20111014