■英雄と兵士
※神羅兵時代のクラウド(15歳)

話し掛ければまるで怯えたように、あ、だとか、う、などと意味のない言葉を話し言い掛けては口籠もり何かと理由を付けて逃げられる。しかし戦場から皆が顔を突き合わせる食事の間まで、やたらとこちらに視線を感じる場面が多い。
それほどまでに嫌われるいわれはないはずだが。とクラウドに迫ると彼は一瞬短い悲鳴を漏らし、顔が青ざめたかと思えば言葉にならない叫び声を上げて一気に耳まで赤くなった。

「ッ〜ー!サー、すみません!俺そんなつもりじゃ…」
心底申し訳なさそうに謝る彼に、何だかこちらの居心地が悪くなる。

「見たところ神羅の一般兵のようだが、俺の知り合いか?」
「い、いいえ!それは、ないです…。絶対に。あっ、神羅のこと思い出したんですね!」

神羅という単語でパッと顔を上げたクラウドの表情が途端に明るくなった。

クラウドの格好は見慣れていたはずの青い一般兵の制服で、彼自身の装備も支給されている銃火器だった。あの暑苦しいゴーグルだけは早々に脱ぎ捨てたらしく、チョコボを彷彿とさせるような金髪がツンツンと跳ねている。特徴的な髪型に見知った子供となれば、この世界で出会ったばかりといえども思い出さないはずはないのだが、こうして彼も面識はないと言うのであれば間違いないのだろう。
しかし…
「俺のことは知っているんだな?」
「はい!サー・セフィロス!」

ビシッと背筋が伸びた完璧な敬礼をクラウドは目の前でやってのけた。幼さが残る容姿とは裏腹に随分と熱心で真面目な性格らしい。

「敬礼はいい。ここは神羅とは関係ない世界だ」
「しかし、」
「俺も他の世界に来てまであの会社のことを考えたくないからな」

俺の言葉にクラウドは少なからずショックを受けたようだった。
歯に衣着せぬ言葉は自分の悪い癖だったが仕方ない。入社したばかりだろうが、神羅に夢を持たせることはあまりにも酷だ。

「…あの、今まで失礼なことをしてすみませんでした。あなたは何も覚えてないみたいだったから、なかなか言いづらくて」
「それは俺が悪かった。自分の会社すら忘れる薄情ものだからな」
「そんな…俺、あなたに憧れて神羅に入ったんですよ」

そんなこと言わないで下さいと、クラウドは今にも泣きそうなほど声を震わせていた。
自分に憧れて神羅に入ったと言われることは何度もあった。実際そうしてあの会社の宣伝に上手く使われているということだ。
実際英雄などただの人殺しに違いない

「フッ、幻滅したか?」
「そんな…!この世界でのあなたは少なくとも、人殺しなんかじゃない!
俺、嬉しかったんです。一緒に戦えて…」
明らかに足手まといの俺や傷付いた仲間を気に掛けて戦闘中に攻撃の手を休めてまで回復したり、率先して前線で敵と戦う姿は俺が想像していた通り、英雄です
「だからそんな悲しいこと言わないで下さい…」

まるで懇願するようにか細く呟いたクラウドに、これ以上何も言えなかった。
自分の行動が他人の目にどう映っていたかなどと気に掛けたことはなかったが、この少年が自分を慕う気持ちは痛いほど伝わってくる。
この世界に自分を縛るものはないが、この視線は何よりも重い



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20111014


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