■012:兵士×死神

カオスの戦士だからといって執拗に馴れ合うことはない。コスモスの戦士を陥れるために、時に道化のように同じ舞台で演じることがあっても根底では腹の探り合い、それどころか、いかに周りを上手く使えるかぐらいにしか考えていない。
この闘争の輪廻に早々に嫌気がさして、戦うことを放棄したのは俺とクジャだった。
境遇に同じく自嘲しながら戦っていたが、共通点はそれだけ。

「考えているのかい?無駄だよ」

視界を過るようにふわりと現れた銀色は、あの男のものとはまた別の色。鳥の羽ような髪が目の前で舞い降りた彼のシルエットに合わせてゆらゆらと揺れる。

劇場艇プリマビスタ。
まるで誰かの記憶を切り取ったかのような、飛空艇の景色。幾つかある世界の欠けらのようなダンジョンの中でもこの場所は特に不思議な空間だった。
閑散としたステージの端に座り込んで空を見上げていると、つかつかとクジャが歩き寄ってくる。大抵カオスの者は言いたいことがあれば言うだけ言って、それっきりだ。
その点はクジャも変わりない。

「君は戦いたくないんだろ?」

ああ、と口から漏れた頷きは思っていたよりも低く口の中がカラカラに乾いている。
つい数十分前にそのことでケフカに釘を刺されていた。カオスであるからにはコスモスと戦わなければいけない。
駒が駒として動かなくなったら捨てる。そんなゲームをしているのだと。
クジャが言う、考えても意味が無いというのはすなわち俺たちには自由がないということ。選択肢はいくつかあるが、その先はどれもゲームオーバーだ。
考えて問題が解決するならあっという間だった。本当の問題は行動するか、否か。

「自分のやりたいようにやりなよ。どうせこの戦いからは逃げられないんだからさ」

本人は嘲笑したつもりだろうが、俺にはまるで彼自身に言い聞かせるようにも聞こえる。似ているんだ、俺たちは
コスモス側に元の世界で親しかった人間がいる。

「優しいんだな」
「…なんだって?」

感じた事をそのまま口に出せば途端にヒステリックな声で聞き返してくる。
ツンとすました顔が歪むのを見て心地が良かった。

「俺を励ましてくれてるんだろ?」
「なっ…」

唇を噛み締める、振りかぶる右手を受け止めれば仕舞には舌打ちが響く。クジャは嫌悪感を露にしたがこの場所から立ち去ることはない。

「勘違いも甚だしいよ!僕はねぇ…」
「おかげで少し元気が出た」

肩に背負う剣を引きずる。彼は信じられないものを見るかのような目で俺を凝視した。

「俺はもう行く、またな」
「ちょっと待ってまだ話は終わってない!」
「…帰ったらいくらでも聞くさ」
「何処に行くんだい?あの女を助けにでも行くつもりなら止めといた方がいいよ」

「違う」
カオスの所だ、と言い掛けて口を閉じる。
不思議と背中に飛ぶ罵声はなかったが、俺は彼の方を振り返りはしなかった。



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20111012


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