■012:英雄×兵士
例えるならペットか何か。
クラウドは無表情で振り返った。そこには同じく仏頂面のセフィロスが立つ。
果たして大の男一人をペットと形容出来るのか疑問だが、そこは惚れた弱みだ。
クラウドの後ろを何処に行くにもついて回るその姿はさながらストーカーと言われても仕方がない。どうしてもこうなったのか。
セフィロスはかつての英雄で神に成り損ねた我が宿敵である。
本来なら眼飛ばし合って死闘を繰り広げるのが常なのだが、どうしたことか召喚された世界では二人は同じ混沌の神に喚ばれた。仲間同士というには血なまぐさいやり取りをしてきた。今更馴れ合う気もなかったが、互いが戦う理由もない。
仕方なしに一時休戦とクラウドはセフィロスと距離を置いていたが、セフィロスの考えは違うようだった。
「何だよアンタ!」
苛立ちからついにクラウドは背負ったバスターソードに手をかける。同じ陣営で争うのは御法度だったが、我慢の限界だった。
セフィロスは目の前でクラウドが叫んでも、動じなかった。元々殺気が感じられない。
黙りこくったままの彼に混乱するのはクラウドの方だった。もっと人間的な会話だとか、害があるのなら剣を向けてくるのだのアクションが有れば、こちらもリアクション取りやすかったのだが、セフィロスは相変わらずじっとクラウドを見つめていた。
この世界で再び出会った頃から、セフィロスには元の世界の記憶が無い。
直ぐに記憶を取り戻したクラウドと違って、自分自身が何者かもおぼろげにしか思い出せておらず、クラウドと敵対していたことすら曖昧なようだった。
クラウドから見ればトラウマの塊のような相手に何一つ覚えられていなかったのは正直ショックだったし、かなり扱いにくかった。
「…何で俺に付き纏う?」
脱力感からクラウドは投げ遣りに地べたへ座り込んだ。逃げても、この男は本気を出せばすぐ追い付かれる。
「お前の近くにいれば、記憶の回復に何らかの手掛かりが掴めるかもしれん」
睨み付けるクラウドの視線もセフィロスは気にも止めないようだった。
それどころかジリジリと間の距離を詰めてくる。思わずクラウドは後退りしたが背後の岩へと追い詰められ蛇に睨まれたように固まった。
「…お前は私の何だった?」
顔のすぐ横にセフィロスの手が回り退路が無くなる。ぐっと顔が近寄り、クラウドは一瞬で底から体が熱くなるのがわかった。
「クラウド」
「やめ…」
赤くなった顔を隠すために出した右手はすぐさま壁へと縫い止められた。
自分は好きだった事も憎んだ事も忘れなかったというのに、この男の記憶のは空っぽでまるで初めて出会った時のようだった。
彼の体温に浅ましくも抱き締めてほしいと思った自分を、きっと未来の自分は後悔するのだろう。
---
20110930