■兵士と獅子
無言が心地好いわけじゃない。
他人との必要以上な会話は避けていたから、自然とそうなる場面は多い。しかし自分を呼び出しておいて一向に話を切り出さない目の前の男に俺は苛々していた。
「…話がないなら、テントに戻るぞ」
「話はある」
確か五分前も同じ台詞で話し掛けてきたというのに肝心の用件に全く触れてこない。
元々好き好んで意味のない雑談や冗談を言う印象はない。クラウドは無口だった。
「スコール、俺の考えてることわからないだろ」
彼は首を傾け振り返る。自分の眉間にしわが寄るのがわかった。
夕暮れの森は静かで、遠く離れたテントからは微かに仲間たちの声が聞こえる。
地平線に沈む夕日に彼の金色の髪を透けて見えた。彼は無表情だ。
「だからスコールも喋らないとな」
「なにが言いたい」
「喧嘩したんだって?バッツとジタンと」
「(…何であんたが知ってるんだ)」
「あんたには…」
「関係ない、けどな。これは俺が勝手に口出ししてるだけだ。」
「どうして、」
(俺たちは赤の他人だろう?)
「…口出ししたいのは俺だけじゃない。
スコールが本気であいつらを嫌ってるわけじゃないことくらい皆知ってるさ。お前は顔に出やすいから」
「なっ…」
「何で二人を避けてるんだ?」
…これではまるで説教か尋問だ。
避けたつもりはない、ただこれ以上関わりたくなかった。
あいつらは俺が作った壁なんかまるで最初から無かったかのように接してくる、から
「…あいつらと馴れ合うことで、何の意味があるっていうんだ」
異世界で出会った人間ならばいずれ別れの時が来る。この世界の一時の付き合いでいくら親しくなろうとも意味がない。
お互い自分の世界に帰れば、また元の生活に戻るんだ。二度と会えなくなる。
「別れが怖いのか?」
「…あんたは平気なのか」
クラウドは目を伏せた。
質問がまた疑問に変わる。
「俺は、無くすのが怖いのに誰かを大切に思うことはやめられない」
「…最初から一人なら、大切に思うこともない。別れも恐くない。そうだろ?」
「スコールがそう思っていても、周りはそう思わないさ。お前が愛されるかぎりお前は孤独にはなれない」
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20110805