■義士×兵士
「お疲れさま!」そんな声がコスモスの陣営に響く日が地平線に沈む夕方。
フリオニールも戦地から帰ってきたところで食事の前に自身の装備を解き、軽装になるために自分のテントへ向かっていた。
自分も含め四人の仲間が共有するものだったが、まだ他の皆が戻った気配はない。
戦場の緊張感が消え、悠々と体を伸ばした後、自分の装備を外そうと手に掛けた時だった。
「フリオニール、先に帰っていたのか」
垂れ幕をめくる気配、そして背後から聞き慣れた低い声が聞こえ、フリオニールは振り返った。
「ああ、クラウドもお疲れさ…、」
振り返りざまに硬直した。
クラウドの声だと思い、てっきり彼がそこにいるのだと振り返るとそこにはまるで人形のような碧眼にフワフワのハニーブロンド。
シルクのドレスを着た可愛らしい(ちょっと骨太の)女の子がいた。
いや、よく見るとクラウドだった。
女装をしたクラウドだった。
フリオニールは二度、我が目を疑った。
早朝強力な武器の素材を集める為と、他の仲間と別れた時に見た彼の姿は確かにいつもどうり兵士の格好をしていたはず。
一体何があって、どうしてこんな格好をしているのか、そして何故妙に着慣れた感じがあるのだろうか。わざわざ自分の髪色と同じ金髪のカツラまで被って!
フリオニールの頭の中では一瞬でぐるぐると色んな疑問と言葉が過ったが、目の前のクラウドの胸元の露出の高さに顔を真っ赤にして固まるだけに終わった。
「…どうした?」
「ど、どうしたって!クラウドこそ、その格好は!?」
「ああ、ライズ発生率とアイテムドロップ率が上がるんだ」
「(そういう事じゃなくて…!)」
「一式が揃ったから着てみた」
真顔で話すクラウドの声はいつもどうり低く、(よく見ると)メイクまで完璧なその装いには酷い違和感があった。しかしよくよく見ると背中にはいつものバスターソードを背負っており、僅かに戦場の残り香が感じられた。
まるでそれが当たり前のように接してくるクラウドに、羞恥を感じるのはむしろフリオニールの方で。
俺が知らない文化なのか!?
もしくは皇帝が仕掛けた新しい罠か!!
などと悶々と頭を抱え込む。
「とりあえずさっさと着替えよう、
夕食の準備もしなくちゃいけないからな」
「うぼっ!ちょっと待て!」
ドレスの裾をぐっ、と持ち上げたクラウドの手を、反射的にフリオニールは掴んで止めた。ドレスの下がどうなってるかなんて知りたくない。思わず不自然に目線を反らしたためか口から変な声が出た。
「何だ…?」
「俺はテントから出る!クラウドはそれから着替えてくれ!!」
怒気迫る勢いで詰め寄るフリオニールにクラウドは理解出来ず眉を寄せた。ただ彼は必要に迫られたから装備していて、今は、ドレスじゃ動きにくい、早く着替えてしまおうくらいの感覚でのたまったのだ。
男同士なのだし、着替えひとつで何を水臭いことを言ってるのだと思う。
同性ならば何も気にすることもないはず。
しかしフリオニールの精神は耐えられなかった。
変に意識してしまって堪らないのだ。クラウドは肌も色白いし、顔立ちが整っているため本当に女の子ように見えてしまう。男だとわかっていても、妙に色っぽい。
女性に免疫のない自分ではそれこそ、ゴクリと生唾を飲み込むレベルだ。
「俺はいいんだ、後で」
「男同士なのに何を気遣ってるんだ?
フリオニールもさっさと(装備は)脱いだ方が楽だろ?」
「ぬ、脱いだ方が楽…!?」
バターン!
「どうしたんだ!?フリオニール!フリオニール!」
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「…ということがあったんだ」
夕食のスープを口に含もうとして制止した。セシルはクラウドの顔を覗き込む。
「何から突っ込めばいいのかな」
セシルはクラウドたちと同室でもちろんフリオニールとも仲が良い。しかしそんなに彼が女性に対して免疫が無いことは知らなかった。クラウドが女装していることも知らなかった。初耳である。
涼しい顔で夕飯をつつく目の前の男は想像以上に得体の知れないものかもしれない。
「俺はセシルの方が女顔だと思うんだけどな」
「…それは僕に喧嘩売ってるのかい?」
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20110723