■英雄と勇者


遠くの空が白み始めた頃合いを見て、セフィロスはテントから抜け出す。ほんの僅かな仮眠だったが、目覚めは外の冷たい空気に触れて気分の良いものになった

秩序の聖域と呼ばれる場所から少し離れた森でコスモスの戦士たちは身体を休める。
幾つものテントを張った中央、見張りの為、小さな焚き火の前にピン、と張った姿勢のまま座る戦士がいた。
セフィロスは声をかけようとして一瞬躊躇ったが、焚き火の近くへ足を運ぶと細めた声で話しかけた

「そろそろ交代しよう」
「ああ、すまない。あとを頼む」

セフィロスは立ち上がった彼に変わり、近くへ腰を下ろす。彼を見上げながら今しばらく思った疑問を口にした

「…今更だが、お前の事は何と呼べばいい?」
セフィロスは戦闘においても普段の生活でも名前を呼び、確認が取れないのは不便だと言った。ソルジャーのトップとして部下や一般兵をまとめ、戦場では指揮官を勤めていた立場からの考えである

「名前などただの記号でしかないが…だが好き勝手呼び名をつける趣味はない」

「…それは悪かった。しかし…私はいまだ自分の名前が思い出せなくてな」
だから必要に迫られば好きに呼んでもらっても構わない、と戦士は苦々しく言った

「そうか…」

堂々巡りだった
好きに呼べと言われても、こちらから勝手に呼び名をつけるのは阻まれる。結局彼自身が思い出すまで待つしかないのだ

「しかし、お前は不安にはならないのか」
「不安、か?」
「過去がわからず、自分自身が何者かわからないままでも、生きる実感は持てるものなのか?」

随分冷めたような口調でセフィロスは言ったが、半分は自分自身に問い掛けるような物言いだった。

「…自分が不安と感じること、それが生きている証なのだと思う」
セフィロスは小さく目を見開いた。
戦士は視線を逸らさなかった。

「それがお前の強さか」



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20110613

※プリッシュの教育の賜物




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