気配を敏感に感じ取ることが出来るティナでなくとも、コスモス陣営に何らかの異変が起こっていることはすぐにわかった。
オニオンナイトはため息と共に腕を組む。
コスモスの陣営に戻った二人は困惑が隠せない様子でお互い顔を見合わせた。
カオスの戦士の気配は全く無いが、いつものようにニギヤカ組がふざけただけのような騒ぎではないことはわかる。
時折聞こえる誰かの叫び声やスコールのガンブレードの銃声が辺りには響いていた。あの冷静なスコールが武器を手に取る事態なのだ。ただ事ではない。

しかしコスモス陣営の入り口で二人は何も出来ず立ち尽くしていた。
オニオンナイトは戦場から戻ったばかりで疲労しているティナを巻き込みたくなかったし、二人はほとんどの魔力を消耗していて今の自分たちに場を収められる自信もなかった。頼りある彼らのリーダー、ウォーリア・オブ・ライトなら話は別だが…

「どうしたんだ二人とも」
「フリオニール!」
「どうしたもこうしたもないよ!」

食事当番で一人食材を探しに出ていて、一足遅く帰ってきたのはフリオニールだった。
二人は事情を説明した。少なくとも三人いれば心強い。

オニオンナイトは出来ればリーダーが帰ってくるよりも早くに場をおさめてしまいたいたかった。どんなトラブルもおさめてしまう彼だが、結局巻き込まれた全員が正座で長々とお説教をくらうのは目に見えている。

しかし現状は想像以上に酷いものだった。

話を聞いたフリオニールがとにかく何があったのか調べたいと言いだし、三人が恐る恐る陣営に足を踏み入れた瞬間だった。
あのアイテム倉庫のコテージの方でドォン!という大きな音と共に地面が揺れた。

「何かしら今の音…」
「行ってみよう!」
「ティナは僕から離れないで」

フリオニールを先頭に、三人はその問題の倉庫へ急いだ。

「…な、一体何があったんだ!?」

その現場は散々なものだった。
地に伏せて倒れたジタン、木の幹を背に蹲るティーダ、仰向けに倒れたバッツの横でスコールは地面に膝を着き、セシルの剣をガンブレードで辛うじて受け止めている。
しかしその背後ではクラウドがバスターソードを振りかざしていた。

「クラウド止めろ!!」
「ぐっ…!」

フリオニールは剣を取り出すとスコールの前に飛び出した。庇うように立ちはだかるとクラウドの剣に自分の剣をぶつけ、軌道を反らす。大剣は二人のすぐ横の地面に突き刺さった。遅れてオニオンナイトとティナも武器を手に取り、スコールの元へ駆け寄る。

「フ、フリオニールか…」
「スコール大丈夫か!?」
「なん、とかな」

ティナはすぐにスコールへケアルを唱えた。淡い光が身体を包み、少しだけ余裕の出来た体力でふらりと彼は立ち上がった。
その横でオニオンナイトは苦い顔でセシルへ剣を向けた。後退したセシルはパラディンと姿を変え、剣を掲げる。その顔は耳まで赤く、目は虚ろで焦点が定まっていない。

「…バーサクだ」
「うん。それと混乱」

「すまないスコール、状況がつかめない。
説明してくれ。何でセシルとクラウドが?」

「多分、あのコテージだ」
「アイテムを保管してる倉庫のことか?」

スコールが言うにはバーサク状態になったクラウドはあそこから出てきた。もしかするとコテージの中に何かしらトラップが仕掛けられていて、二人はそれでおかしくなったのかもしれない。

「私行かなきゃ!皆を早く回復しないといけないもの」
「そんな、危険すぎるよ!」
「でも…!」

ティナは今のケアルでMPが尽きた。
これで魔法で治癒をすることはもうできない。

「…俺たちがセシルとクラウドの気を引こう」
「わかった」
「フリオニール!?スコール!?」
「その間にティナは回復薬を持ってきてくれ。オニオンナイトは彼女を守るんだ」

苦渋の決断だった。傷の深いジタンたちは早く手当てをしないと手遅れになってしまう。頭を抱えるオニオンナイトにティナは大丈夫と笑ってみせたが、少年は嫌な予感がした。


 
「来い!クラウド!」
「セシル、いい加減正気に戻れ!」

フリオニールとスコールは先制し、バーサク状態の二人に斬り掛かった。強化された二人に力押しされればとても適わない。元々疲労している身で体力の限界も近い。運が悪ければ全滅だ。四人は最後のチャンスだと思った。

「今だティナ!行こう!!」

フリオニールとスコールたちが戦っている間に隙を見てオニオンナイトとティナはコテージに駆け込んだ。

「あったわ、ポーション!」
「気を付けて!何が仕掛けてあるかわからない」

コテージに保管してあった回復薬は無事だった。四方を見渡しても、幾分変わったところは見当たらない。ティナは棚に並べてあったポーション瓶やフェニックスの尾を胸に抱き締める。これで傷ついた仲間を助けられる。

「これをジタンたちに」
「わかった!ティナは?」
「私は魔法でセシルとクラウドのバーサクを解いてみるわ」

エーテルはあったかしらと、ティナは棚の奥を調べた。ポーションと同じ形で色の違う瓶を見つけ、手に取る。
日頃からアイテム節約の為に体力や魔力を消耗した場合、その日の戦いは極力控え、テントで一晩休むことにしている。
ゆえにエーテルを使うことは滅多になく、ティナは初めて見たこの瓶をエーテルやエリクサーだと勘違いした。
焦る思いから瓶を空け、ふちに口をつけるとティナは一気に飲み干した。

「ティナ!待ってそれは…」

オニオンナイトの制止は一歩遅く、ティナは最後の一滴を喉でごくりと鳴らして飲み干した。

「もしかして全部飲んじゃった!?」
「あっ…」

空になった瓶がするりと彼女の手から抜け、床へと叩きつけられる。瓶の割れるガシャンという音と共にティナの顔がみるみる赤くなっていく。
足元も覚束ない様子でふらりと揺れる体を支えようと駆け寄ったオニオンナイトは思わず顔をしかめた。
コテージの中に立ちこめる薬品の匂いに紛れて強烈なアルコールの匂い。

割れた瓶のラベルには
「バッカスの酒!」



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