「…死んだのか」
思いの外、セフィロスが弱々しい声を洩らしたので皇帝は声を上げて笑った。
自ら声をかけ、煩わしく振り向いた英雄に先刻の出来事を告げればなかなか面白い反応が返ってくる。

「そうだ。カオスに逆らったのだ!完全に消滅した」
クラウド・ストライフはもういない

伏せていた顔が長い銀色の髪によって隠れる。変わらぬ表情からはその心中は察する事は出来ないが、あれだけ執着していた者がいなくなり喪失感があるのか、それとも、

「絶望でもしたか」
その言葉に片眉をぴくりと動かし、セフィロスは明らかに怪訝な表情を見せた。

「あいつが私以外の者に破れるとはにわかには信じがたい」
それこそ根拠のない言い訳のように聞こえる。吐き捨てるような苦言はセフィロスらしからぬものだった

「…ほう?あの者なら神に勝てるとでも?」
惨めなものだ、期待していていたのはこの男自身ではないか。感情の欠如していると思っていた男の素顔は何とも呆気ない

「愚かだな、セフィロス」
皇帝は見下した視線を向けて、セフィロスを眺める。つまり自分が壊すと決めた者が消えた喪失感にかられ、果ては憎き宿敵に己が止めをさせなかった事を悔やんでいるのだろう。全くもって面倒くさい男だ、
だが、この男は使える。使うと決めた。


「私に仕える気はないか」

「…冗談のつもりか」

何を言い出すかと思えば、
同じカオスの戦士である自分を皇帝は、駒か虫けらのように思っているはず。今更どうして主従を結ぶ必要があるのかセフィロスには理解できなかった。

「フン、忠誠を誓うなら悪いようにはせん」
「趣味の悪い」
「…私に協力しろ」

これはただ言葉にすることで手を貸すか否かの意思表示でしかない。
どちらにしろ、この男に関われば顎で使われるだけだというのに。飼い殺されるのはもう清々している

皇帝は未だ上からものを言う態度を変えなかった。セフィロスが何と言おうと答えは決まっている。
皇帝はこの男を支配したいという欲求が沸々とわいていた。邪魔者ももういない


「生憎だが…あいつがいないのであればこの輪廻にも、もう用はないな」

セフィロスは目を伏せた。
皇帝が為そうとする事は用意に想像が出来たし、自分の目的とは方向性がズレている。
関わるのは無意味に近い。

セフィロスは皇帝に背を向け歩きだす。しかし直ぐに止まり左手に刀を構えた。
皇帝は急に黙した彼の行動の意図が計れず、止めることはしなかったが、セフィロスの覆う空気が一瞬でガラリと変わり、眉間に皺を寄せた。

「セフィロス、一体何を、」

「この下らない世界から出ていく。その実験だ」
セフィロスは自分の記憶が戻っていくにつれ、自分の存在に疑問を抱いていた。
この肉体は本当に自分のものなのか。
何故この世界に召喚されたばかりの時は記憶が無かったのか?
もしかすると自分はイミテーションと呼ばれるあの人形と変わらない存在で、ただ記憶を植え付けられているに過ぎないのではないか、と。
 
「なっ、」

皇帝が言葉の全てを察した瞬間、
正宗を持ちかえ、セフィロスは己の身体に向けて躊躇いもなく振り下ろした。
床には鮮血が飛び、男の身体は重々しくその場に崩れ落ちる。

「貴様…!」

皇帝は思わず舌打ちを洩らし、走り寄ってセフィロスの身体を抱き起こした。
人間であるなら心臓があるであろう左胸を刀は完全に突き抜けていた。

「一体何のつもりだ!気でも狂ったか!」

首を支え、顔を見やれば白く整った顔とは対照的に口端から赤い血が零れ伝う。
呼吸は既に浅く、絶えず胸からは血がドクドクと吹き出していた。回復魔法も無意味なのは目に見えている。即死を狙ったような傷だ。

「…退け」

セフィロスは一言絞りだしたかと思えば皇帝を睨み、一蹴すると最期の力で魔法の詠唱を始めた。己の魔力を爆発させ肉体を跡形もなく消滅するために。

「勝手に消滅するなど許さぬ…!」

淡い光がセフィロスの身体を包み込んでいく、それを見た皇帝はセフィロスの体内に蓄まっていくエネルギーを己の魔力でねじ伏せた。
これ以上勝手な行動を許すつもりはない
消滅などさせて堪るか。

「くっ…」
まさか邪魔されるとは思いもしなかったのであろうセフィロスは信じられないという表情で皇帝を見つめた。圧倒的な力に遮られ、己の魔力が解放出来ないまま意識が混濁していく。死の感触がじわりと近づく。

(何故、)

皇帝に問う間もなく、セフィロスの身体が闇に包まれる。黒い炎が全身を燃やすように纏い、消えていく。次の輪廻へと運ばれていくのだ

「…次の戦いではこのような真似は絶対に許さん」
炎が消えるまで、皇帝はそれを見下ろしていた。体を掴む指先は怒りで震える。

次に会った時は檻にでも入れてしまえばいい、もしくは偏った記憶を植え付け自分のそばに置いておけばいい。二度とこのような愚かな行いをせぬように。
皇帝は何度も自分に言い聞かせる。

(何故、だと)

セフィロスは己の仮説を証明するために死を選ぶ事に戸惑いもなかった。それほどまでにこの閉じられた世界に興味がないのか、それとも飽いたのか。
彼が消えてしまった今では問い詰めることも出来ない。皇帝にはあの男の考えも価値観も最初から理解など出来なかった。

(そんなもの、こちらの台詞だ)

ただあの男が消え、喪失感だけがその場に止まっている。それが酷く己を惨めにした
自分はあの男を特別に扱っていたにも関わらず、アレは私に何の執着もなかったのだ。
望みなど元々持っていない、期待など持っての他、アレは私にとって道具に過ぎない
しかしこの感情はなんなのだろうか



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20110628




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