■光の戦士たち(アルクゥ+ルーネス)


痺れた手元に杖が地面に転がった。敵の捨て身の攻撃をまともに受けてしまい、膝を着く。肩の傷が深い。こめかみに伝う汗に血が混じり俯く足元へ落ちていった。
息を荒く吐くものの、呼吸が落ち着かない。

「アルクゥ!待ってて、今回復してあげる!」
レフィアが隣で即座に白魔法の詠唱を始めた。

「くそっ、さっさとくたばれ!」
イングスが両手に構えた剣を突き付けるものの、敵は全く動じない。

(いけない、そのモンスターには物理攻撃が通じないんだ。黒魔法を使える僕が何とかしないと)
地面に落ちた杖を拾おうと腕をのばすものの、肩の傷口がじくじくと痛む。唇を噛み締め杖を握り締めるが魔法の詠唱に集中出来ない。

「危ない…!」

レフィアの悲鳴にはっとして顔を上げた時には遅かった。再び爪を立てて襲い掛かってきたモンスターがすぐ目の前まで迫っていた。
逃げ出すことはおろか、身構える事も出来ないまま、モンスターの攻撃が振り下ろされる瞬間を僕は時間が止まったかのように茫然と見ていた。

「やめろっ!!」

叫び声と共にガキン!と金属同士が激しくぶつかる嫌な音が洞窟に響く。自分の前へ飛び出したルーネスはモンスターの攻撃を剣と盾で受け止め弾き返した。

「ル、ルーネス…、なんで…」

「今は魔法の詠唱に集中するんだ!
レフィア!回復急いで!僕も補助に回るから!」

「わ、わかったわ」

モンスターの死角になるようにルーネスは剣を構え、自分の前に立っていた。

「ケアルガ!」
レフィアの唱えた回復魔法の癒しの光が僕の周りを囲い込む。みるみる傷口が塞がり、身体が軽くなった。
すぐさま杖を構え直して黒魔法を唱える。

「みんな!下がってて!」
ルーネスは僕を後ろ手に確認すると、小さく頷いて敵への道をあけた。
モンスターに向けて杖を振りかざし、僕はありったけの魔力を注ぎ呪文を叫んだ。

「ファイガ!」

敵に目がけて放たれた激しい爆発は灼熱の炎共に全てを焼き尽くす。魔法の余波に耐え兼ね爆風に目を細めている間にモンスターは燃え尽き消え去った。

「やった!倒したのね!」
「でかしたな、アルクゥ」

敵の気配が消えたのを確認し、レフィアとイングスが武器を収める。長い戦闘が終わり二人は一時の安堵からか笑みがこぼれていた。

「いや、僕は…」
僕にもっと力があれば戦いが楽になったかもしれないのに。そう言い掛けて、近づいてきたルーネスに過られる。

「怪我はもう平気?」
「あ、うん」
とっさに頷いたけれどルーネスに腕を引かれ、服の切れ目から傷の具合を確かめられる。
ローブは痛々しく切り裂かれたままだったが、さっきまであった肩の傷は綺麗に治っていた。

「よし、なら先に進もう」
ほっとしたように息をはいて、彼は再び道を進むべく先陣をきって歩きだした。

「…ルーネス!」
これではまた言いそびれてしまう。

「何?」

ルーネスとはもう小さい頃からずっと一緒で何度も喧嘩したし、今でも冗談でたまにからかわれたりもする。けど彼が昔から僕を気遣ってくれてるのを僕自身気付かないはずはない。そんな幼なじみだというのに、僕たちは面と向かってお礼を言う機会がほとんど無かった。

「さっきは、助けてくれてありがとう…」

実際声に出してみると何だか気恥ずかしくて自然と顔が俯く。けどちゃんと彼に伝えたかった。
一緒に旅をして、初めて彼がいかに頼りになるか、心強いか身を持って知った。
戦闘で助けられたのは今日が初めてじゃない。
彼がいなかったら僕は最初から戦うことも出来なかったと今では思う。
いつかちゃんと全部、言えたらいいのに。

「…身体が勝手に動いただけだよ」

ルーネスは同じく照れたように頭を掻くとぶっきらぼうにそう言って、また先頭を歩きだす。

お互い今更言葉にするのにははばかれる。
だから、この戦いが終わったらきっと…

僕は杖を握りしめ、彼のあとを追いかけた。



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20110807




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