■英雄×暴君
「くっ…!」
「助けが必要か?」
そう尋ねるもののセフィロスは皇帝を見下ろすばかりで、手を差し伸べる気配はない。
皇帝は苛立ちと屈辱で目の前の男を睨み付ける。
この輪廻の戦いで二人は協力関係を結んでいた。セフィロスが前衛で相手を追い詰め、皇帝の罠へ誘い込むという戦法を取り、一人のコスモスの戦士を相手に先程まで戦っていた。
戦士は皇帝の魔方陣に体の自由を奪われ、その背後からセフィロスの居合いの餌食となった。しかし、その時最後の悪あがきで目の前にいた皇帝に切り掛かり、皇帝は深手の傷を負った。
共闘というには互いに遠慮はなく、セフィロスは元々皇帝を庇う気はなかった。
魔力の尽きかけた皇帝は回復魔法も唱えられず瀕死のままセフィロスの足元で這い付くばっている
「フン、貴様の世話にはならん…!」
「強がっている場合か?」
ただでさえ情けない姿を晒し、プライドをいたく傷つけられた。ましてや目の前の男の手を借りるなど皇帝には考えられない。
しかし腹部の傷が想像していたより体に響き、ついに地面に手がついた。意識が混濁としていく。
「うっ!…なんの真似だ」
セフィロスはポーションを皇帝に投げつけた。頭から零れ落ちる液体に傷がみるみる癒えていったが、屈辱的な扱いに皇帝は唇を噛み締めて目の前の男を睨み上げる。
液体によって髪はべったりと張り付き、メイクは流れて崩れた。
「さあな、気紛れだ」
「…!」
素っ気なく振る舞うが、セフィロスは笑いを堪えていた。
ぐしゃぐしゃになった顔で皇帝はわなわなと震え、怒りで頭に血が昇った。しかし、助けられたのは事実であり、罵倒も嫌味の一つでも溢せばもっと自分が惨めになるだけである。それが腹立たしい。
全快を確認すると皇帝は素早く立ち上がり、地面に転がっていた自分の杖を呼び寄せた。
「お前もそんな目が出来るんだな」
「…チッ、覚えておけ!」
「ああ貸しは高くつくんだろう?」
セフィロスは喉奥でクックックッと笑う。
この男を見ていて飽きることがないとセフィロスは思った。
皇帝は居心地の悪さからつい負け犬のように吠えたが、いかんせん、この元英雄も中々意地の悪い性格だった。怒りにまかせて杖を振りかざすがとっくに魔力は尽きている。
ぐうの音も出ない状況に、顔を真っ赤にして皇帝はとうとう逃げるようにこの場を走り去った。
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20110720