■英雄×暴君


夜も更けた頃、気まぐれからセフィロスは皇帝のいるパンデモニウムへと足を運んだ。
睡眠を取る事のないセフィロスはコスモスの戦士が動きが完全に止まる夜はいつも暇を持て余していた。元々カオスの者たちは人間ではない者もおり、話す相手には事足りないが、まともな神経を持って会話が成立するかと言えば別である。しかしそういった条件の上で、自分を配下にしたがっている皇帝に気を遣うことはなかった。
自分に気があるのか無下な扱いは受けなかったし、何より彼自身癖はあるが本質的にはわかりやすい性格をしている。


「何だ、こんな夜更けに」

寝室の扉を叩けば、案の定体を休めていたらしい皇帝が顔を見せる。しかし、その顔を見た瞬間セフィロスは固まった。

セフィロスが感情を表に出すことはない。ということは無く、実は本人も無意識の内に感情の起伏に合わせて微妙な変化が見られたりする。気に入らない事や不快感があれば、片方の眉がぴくりと動き、逆に機嫌がよければ口端が僅かに上がる。無論、一般人がそんな微々たる変化に普通気付くはずもない。
そんな小さな違いに気付けるのは幼い頃から彼に憧れ、英雄時代のセフィロスの切り抜きを集め、コアなファンクラブにまで入っていたクラウドくらいである。
しかし、この時のセフィロスは珍しく他人からも分かりやすいくらいに動揺の色が見てとれた。口をぽかんと開け、怪訝に眉間のしわは深々と刻まれている。
セフィロスは皇帝の素顔を見るなり固まったのだ。

「…何だその顔は」
「それはこちらのセリフだ」

色白い顔に妖艶に魅せる紫色の紅も人を蔑むような印象を与えるアイラインも眉もない、皇帝はいつもの厚い化粧を落とし、素顔をさらしていた。
彼自身元々生身の人間だったのだから、身体を休める時は化粧を落とすのだろう。
やたら所帯染みた雰囲気に面食らった元英雄も自分が人間であった事をふと思い出す。

皇帝はセフィロスを寝室へ招き入れたものの、自分の顔をじっと見つめたまままのセフィロスのあからさまな反応に不服そうに眉を寄せた。

「化粧などしなければ見れる顔だというのに、つくづくお前は趣味が悪いな」

「フン、他人に好感を持たせる為のものではないわ!」

皇帝が派手に着飾るのは権力の象徴であったがセフィロスには全く理解できない。
見た目に拘りがない彼にとっては、化粧も派手な衣服も余計な手間に思える。皇帝は立場上前線には出ないとはいえ、常にそう形を取るのが不思議だった。

元々この男の容姿は悪くないのだ。
わざわざ不気味に見せるのが勿体ない。

「マティウス」
「…?なんだ?」

セフィロスが滅多に口にしない自分の名を呼んだことに皇帝は驚き戸惑った。セフィロスが手をのばし、自分の顔の輪郭を掴むが、呆気にとられ、されるがままである。
セフィロスは皇帝の顔をじっと見つめた
よくよく見れば形のとれた綺麗な顔立ちをしている。中性的な印象は消え、改めて彼自身が男なのだと実感した。

「私の前では化粧を落とせ」
「…それがお前の趣味か」

いつもとは違う熱い視線を向けてくるセフィロスに、嫌味の一つ言うことを忘れ、皇帝は苦笑いを漏らした。



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20110715




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