■012:英雄×兵士


願い事を一つだけ叶えよう。
今も過去も未来も決して変わりはしないが、人間はいつだって夢を見ることが出来る。
どんな絶望の中にも光を見いだすことは容易なのだ。それに手が届くかは別として。


「何で、俺はあんたを!」

「…憎んでいる。それと同じようにお前を愛しくも思うのだ。この感情は何だ?」

「そんなの、知るか」

クラウドは自分に言い聞かせる。目の前の男は故郷を焼き、母を殺した仇だったはず。
本来ならば敵なのだ。それに思い出すのはセフィロスに対する憎しみの記憶ばかりなのに、どうしても彼を拒めない。
いつもクラウドの肩に背負われたバスターソードは今は地に突き刺さり、セフィロスもまた同じく片時も手放した事がないはずの正宗が地面へと投げ出されている。

セフィロスの口付けはまるで腫物を触るかのようにぎこちなく、酷く優しかった。それにまたクラウドは戸惑う。いつも刀を握るその血に塗れた手が背に回る。見上げた彼の顔は記憶の奥底にしまったかつての英雄その人だった


「どうした?クラウド」

「…あなたが、俺を思い出さなかったらどうしようかと思いました」

クラウドはセフィロスの腕の中で息を殺す、網膜に張りつく涙が零れてしまわないようにただ唇を噛み締めた。黒い手袋がクラウドの髪を愛しそうに撫でる。

「すまない、寂しい思いをさせたな」
「そう、あなたはいつだって…」

紡がれる言葉は最後まで続かず喉元に引っ掛かった。記憶の回復は突然やってくる。
本人が意図しない行動そのものが過去の自分と重なり記憶が引き出される事や、言葉によって連想されたものがその人物の記憶に深い関わりがあればより鮮明な記憶の復元に繋がる。

クラウドは目の前にいる『彼』が自分があの日殺した彼ではないとわかっていた。
自分が愛した英雄は狂気に満ち、ライフストリームよって新たな人格を作り上げた彼にはもう当時の面影はなかった。

しかしこのセフィロスは一体誰なのか。
指先が皮膚に触れるものの彼に体温はない。それと対照的な柔らかな目線はジェノバのものではない。
自分を呼ぶ今この瞬間の『彼』は間違いなく英雄セフィロスのはずなのに、人として生きていないのだ。

「もう何処にも行かないで下さい」
「ああ…」

混沌の神が呼び寄せたセフィロスは、確かに星を滅ぼそうとしたあの男だった。

クラウドは胸の内の苦しみを吐き出すように彼を求めた。愛した人を何度も殺した感触はいつまでも脳裏に刻まれて、なくなることはない。彼にはもう二度と愛される事もないと思っていた。
一時の夢なら覚めないでほしいと、神に願う。この闘争の輪廻は覚めない夢であるのなら。



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20110811




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