■コスモス勢


その日はバケツをひっくり返したような酷い雨だった。大粒の雫で先5メートルが見えなくなるような豪雨が降り注ぎ、当然ひずみでの探索やイミテーションの討伐は中止となり、戦士は皆コスモスの陣営で1日を過ごすこととなった。
あまりに激しい雨で平地ではテントも張れず、戦士たちは木の下にシートを張り、雨宿りをする羽目になる。
雨を避けるため狭いスペースで皆膝を丸めて座り込んでいた。そんな中暑苦しさがとうとう耐えられなくなり、濡れるのも構わず雨のなかに飛び込んだのはティーダだった。

「ティーダ!風邪引くぞ!」

「これくらい平気だって!皆も来ればいいのに、気持ちいいッスよ!」

咎めるフリオニールの言葉も聞かずにティーダは両腕を広げて、雨に打たれた。
一瞬で跳ねた髪も服も水が染み込み色が変わる。シャワーのように頭から水を被ってしまえば、いっそ清々しかった。
それを見て、堪らず立ち上がった男が一人

「うわっ、思ってたより冷たいな!」

続いて飛び出したバッツは想像していたよりも冷たい雨粒に戸惑いながらも、狭い場所に止まっていた鬱憤をはらすべく雨の下で走りだす。

「バッツ…」

思わず呆れた声を出したのはジタンだった。スコールも隣で声には出さないが信じられないものを見るような顔で固まっている

「…全く子供なんだから」
「ホント風邪引かなきゃいいけど」

子供である自分よりもある意味子供らしい2人の行動にオニオンナイトは目眩がした。対するティナは心配そうに彼らを見つめている。

「ちょっと羨ましいなぁ」
「セシル!?」

オニオンナイトは頭上から振ってきた言葉に耳を疑った。振り返り思わずセシルを見つめるも、いつものふわりとした笑顔を返される

「ふふ、冗談だよ」

セシルは2人を穏やかに見つめた。
自分もあんな風に濡れるのも気にせず雨の中走り回れたら楽しいかもしれない。
が、今自分がすべきことは、彼らが風邪を引かないようにタオルと焚き火を用意することか。

「オニオンも来いよ!」

悪態が耳に届いたのか、ティーダはシートの近くまで走り寄り、オニオンナイトの腕を引っ張った。

「うわっ、もうっ信じらんない!何するのさ!」

バランスを崩したオニオンナイトは足元の水溜まりにそのままバシャッと前のめりに倒れこんだ。泥水が鎧やマントに跳ね、酷い有様に。
それを見たバッツとティーダは顔を見合わせ笑いだした。

「あっはっはっ!」

「〜〜!…覚えてなよ!」

「ごめん!わざとじゃねぇって!」

水溜まりから救い出そうと差し出したティーダの手も泥だらけである。雨水であちこちに出来た水溜まりのせいで足元は常に泥水が跳ねていた

「ジタンもノリが悪いぞ!」

「バカ!セットが崩れるだろ!」

目を逸らしていたジタンだったが、それはバッツが見逃すはずもなく。濡れる髪や服、尻尾の心配も虚しく雨の中に引き摺りだされた。

「あとは、スコー…」

バッツは次にスコールを狙い定めた。が、
スコールを纏う険悪なオーラと小動物を食い殺すかのような睨みに負けて、勢い良くその手を引っ込めた。噛み殺される。

「…そう睨んでやるなよ」
「(じゃあアンタが混ざってくればいいだろ…)」

四人を涼しい顔で見守るクラウドの余裕が、スコールには羨ましかった。
下手をすれば自分は巻き込まれてしまうかもしれない。自分たちより年上であるクラウドには遠慮があるのか、悪ノリに付き合わされる事が無かった。自分も同じく口数は少ないのにこの差は何なのだろう。
スコールが全力で拒否する姿勢にクラウドは笑いを堪えた。

「しかしまあ、凄い雨だなこりゃ」

ジタンは厚い雲に覆われた空を見上げた。
まるで夜のように光は大地に届かず薄暗い。


「何をしている?」

雨の中聞きなれた一人の声が響き、騒がしかった四人の動きがピタリと止まる。
オニオンナイトとジタンは声の主を見つめ、「しまった」というのが顔に出ている。
ティーダは気まずそうに頭を掻き、バッツは困ったようにヘラっと笑う。

「リーダー…」

皆の視線が光の戦士に集まった。
彼はいつもの鎧を身にまとった姿のまま雨の中たたずんでいた。
いつもはふわふわと兜からはみ出している銀髪は濡れてぺたりとまとまり、マントは水分を含んでだらりと鎧に張り付いている。

早朝から一人でコスモスと話をすると出掛けたっきりだったのが、ちょうど今帰ってきたのだろう。

陣営で仲間たちが雨の中びしょびしょになって、はしゃいでいる光景に彼も言葉を失った。状況が飲み込めないようだ。

「おかえりなさい」
「ずぶ濡れじゃないか、早くこっちに」

シートの中にいたティナとセシルは雨に濡れた彼を気遣い、乾いたタオルを差し出す。
しかし光の戦士はそれを受け取らない。

「…濡れているのは私だけではないだろう。ティーダ、君はただでさえいつも薄着なのだから今日のような雨に濡れては風邪を引くぞ」

「うっ、そうッスね…」

叱られるとばかり身構えていたはずが、心配されてしまってティーダは困惑した。

「皆も、体を冷やすぞ」

近くにいたオニオンナイトは問答無用で手を引かれる。その手は手袋の上からでもわかるくらい温かく、そこで初めて少年は自分の体温が思いの外下がっていたことに気付く。

リーダーの指示に促されて、さっきまで走り回っていたバッツとジタンもしおらしく木の下へと雨宿りに向かった。
二人を待ち構えていたスコールからタオルを受け取り、その場へ腰を下ろす。

ティナとセシルは乾いた地面を探し、枯れ枝で小さな焚き火を作った。戦士たちは鎧を脱ぐとその火を囲むように集まり、肩を寄せ暖をとる。
ティーダはフリオニールに頭からタオルを被せられ髪の毛をガシガシと乱暴に拭かれていた。
リーダーは仲間たちを見ながら不思議と嫌な気持ちにはならなかった。雨に濡れ、水分を含み重くなった衣服に不快感はあるものの、この空間を取り巻く雰囲気は暗いものではない。
雨自体は行動の範囲が限られ、煩わしく感じているはずなのに、嫌いではないと思う

「アンタが帰ってきてくれて助かったぜ。収拾つかなくなるとこだったからな」
ジタンが隣に座り、手袋を外して焚き火に手をかざしていた。

「よく言うよ」
その声にオニオンナイトはやれやれといったように両手を上げて見せた。
にぎやかな年上の仲間たちは自分では手に負えない。自分は注意や突っ込みは出来てもストッパーにはなれない。さすがはリーダーといったところと少年は尊敬の念を深くする

「あなたが帰ってくるとみんなホッとするんだよ」

セシルは光の戦士の背後から労るように肩にタオルを乗せた。
その光景に向かいに座っていたスコールの表情が和らぐ。

「…まるで親だな」

「それほど私は君たちと歳が離れているつもりではないのだが」

「…(そういう事じゃない!)」

「ものは、例えだよ」

声にならないスコールの突っ込みをセシルは察してクスクスと笑う。
光の戦士は「そうか」と頷く。仲間が集まっているとどうも調子悪い。スコールは少し頬を染めて口を閉ざした。



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20110720
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