■竜騎士と義士と少年

見知らぬ世界に召喚され彷徨い歩くこと数十分。自分の記憶は完全ではないが、今まで見たこともない地形や建物を見るとこの世界が自分の知っているものではないことが否応なしに理解できた。

「リチャード!」

「…悪いが、人違いだ」

呼び止められ、振り返ると自分よりも年若い少年たちがそこにいた。
自分の顔を見ると銀髪のバンダナをした青年はバツが悪そうに俯き、隣にいる鎧を着た背丈の低い少年は困ったように首を傾け腕を組んだ。歩いて近寄ってくる二人に殺気のようなものは感じられない。
警戒心から構えていた槍を下ろす。

「ほら、やっぱり別人だよフリオニール」

「…そうみたいだな、すまない」

「あなたもコスモスの戦士?」

「お前たちもか」

神々は子供にも容赦はないらしい。
到底軍人には見えない、ましてや成人にも達していない子供に戦いを強いるなど、何処の世界も平和には程遠いということか。
カインは既視感から自分の世界にいた召喚士の少女や幼い双子の魔法使いを思い出す。

「僕はオニオンナイト、彼はフリオニール。僕達もついさっき、そこで知り合ったんだ」

「…カイン・ハイウィンドだ」
(リチャード、)
その名前にはカインも聞き覚えがあった、しかし未だそれが誰であったのか思い出せない。断片的に思い出す記憶は大事な部分がぽっかりと空いて戦士たちを悩ませる。
現にフリオニールは竜騎士姿のカインを見た途端、無意識に元の世界の仲間であるリチャードを思い出していた。

「ふーん、ということはやっぱり竜騎士って色んな世界にいるんだね」

「…俺たちが同じ世界の住人という可能性は」

「無いね。少し話しただけでわかるけど、先ず文化が違う。試しに知ってる地名や街の名前をお互い言ってみたけど、まるでさっぱりだ」

オニオンナイトはお手上げだと言わんばかりに両手を上げた。
自分と同じように異世界から呼ばれた者がいるということは、少なからず神々の闘争に巻き込まれたことは確かなようだ。


「何故俺がコスモス側だと?」

もし自分がカオスの戦士であったなら戦いは避けられなかったかもしれない。二対一と有利な状況とはいえ、無防備に話し掛けるのは迂闊だ。出会って数分だったがオニオンナイトと名乗る少年は少々頭がキレるようだ。人の善さそうなフリオニールと違って用心深そうな彼が承諾したのは意外だった。

「あー、それは…」

「誇り高い竜騎士が混沌の神に召喚されるなんて想像出来なかったな」

カインは言葉を失った。
彼らの世界がどんなものかわからないが、同じように竜騎士が存在し、かつ絶対な信頼を得ていたのだろう。フリオニールの目は仲間への思いを重ねて真っ直ぐカインを見つめていた。

「僕らの知ってる竜騎士なら無駄な争いはしないんじゃないかと思ってね。実際カインは悪いやつには見えないし」

「…そうか」

彼らは自分の過去の過ちを知らないとはいえ、竜騎士というだけで自分を信じるのはあまりに買いかぶり過ぎではないだろうか。
かといって、この異世界で他人を信用するなと言っても説得力はない。この世界を証明する確かなものは何一つないのだから。

カインはフリオニール、オニオンナイトと共に調和の神・コスモスに会うため秩序の聖域を目指すことにした。

「ホント、神様って自分勝手だよね〜」

「…そうだな」

「戦闘になったら頼りにしてるよ」

「フン、大人はお前が思うほど優しくはないかもしれんぞ?」

「そう?じゃあ子供はあなたが思うほど純粋じゃないかもしれないね」

カインはまた言葉を失った。



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20110817




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