■義士と騎士と兵士と夢想


「弟がいたらこんな感じなのかなぁ」
「ああ、ちょっとわかるなそれ」

セシルの独り言のような呟きにクラウドは横で頷く。
天涯孤独だったセシルにとって、ティーダやフリオニールは仲間というより兄弟のように思えた。唯一の血縁である兄のゴルベーザとは、残念なことに一切家族らしい振る舞いも出来なかったけれど。
ティーダとフリオニールを見ていると同じ戦士としては失礼かもしれないが、その未熟さが時々危なかっしく、自分が守ってあげたくなるような愛しさを感じる。
それは隣に座るクラウドに対してもあって、仲間意識よりもそれ以上の何かが、四人にはあった。

クラウドもまた肉親を亡くしていて、一人の時間が長かった為、兄弟や家族といった感覚が殆どない。
それに元の世界の仲間たちはどちらかというと自分よりも年上ばかりだった。
しかしまだ成人にも達してしていない大勢の戦士に囲まれる今の現状は彼自身を過保護にさせていた。

「なーに、喋ってるんスか?」

二人が座り込んでいるのを見つけてティーダは走り寄った。セシルとティーダの顔を覗き込んでくる仕草に、思わず彼の頭を撫でようとセシルは手をのばしかけたが、ふと我に返り引っ込める。

「お前とフリオニールのことだ」
「え、何なに?」

ティーダが目の前に腰を下ろすとクラウドが戸惑いもなく彼の頭を撫でていて、セシルは苦笑する。きっと自分と一緒で無意識なのだろう。

「フリオニール!君もこっちにおいで。
少し休憩にしよう」

敵の気配がない静かな湖の縁で三人は肩を並べていた。
セシルがテントの横で武器の整備をしているフリオニールの後ろ姿に声をかけると三人が集まっていることが気になっていたのか、彼からはすぐ反応が返ってきた。

「真面目ッスね、のばらは」
「それが彼の良いところだよ」

確かにこの世界では激しい戦いが続くけれど、たまには気を許せる時間が必要だと思う。フリオニールは特に根を詰め過ぎる部分がある。
感情的に行動するティーダとはまた違った心配をクラウドとセシルは彼にしてしまう。それが彼にとっては足枷になるのかもしれないけれど、そう思うことを仲間としては止められない。


「な、何だよ三人とも。俺の顔に何かついてるのか?」

そんな思いも知らず、三人の視線が自然とフリオニールへと集まると彼は照れ臭そうに頬を染めた。

「君とティーダが弟みたいだねって話をクラウドとしてたんだ」
「俺とのばらが?」
「…兄弟か、なるほどそうかもしれない」

フリオニールには元の世界で兄弟のように一緒に育った仲間がいた。
確かにクラウドとセシルはその仲間たちと同じようにとても頼りになる。戦闘でも、それ以外の日常でも。年齢差とは別にフリオニール自身甘やかされている自覚はあった。

「んー、俺はその感覚ちょっとわかんないけど…フリオニールもセシルもクラウドもすっげぇ強いし、俺に優しいし、大好きだよ」

「ふふ、そっか。ありがとうティーダ」

セシルはにこにこと笑ってティーダの肩を引き寄せて抱き締める。
ザナルカンド・エイブスのチームメイトはみんな年上ばかりだったけれど、ティーダにとって三人はそういう先輩や兄貴分のようなものではなかった。自分にとことん甘くて、たまにくすぐったくなるくらい無性に優しい。


「俺からするとセシルも弟だな」
「僕もかい?それは考えてなかったなぁ」

クラウドのポツリと呟いた一言にセシルはきょとんと目を丸くする。自分はクラウドと対等に接していたつもりだったのだけれど。


「だからセシルも甘えてもいいぞ」

クラウドの手がセシルの背中にのびる。フリオニールもティーダもセシルを見つめていた。セシルは目頭が熱くなった。
今だけ、この時だけは自分が弱くても構わないと思えた。



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20110802



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