■012:兵士と夢想
見た目から人間離れしているカオスの連中の中でクラウドは優しくて凄くまともな人間に見える。コスモスとカオスを分ける人選に意味があるのかわからなかったけれど、仲間がいて、親しくしてくれる人間がいることに俺は安心した。
「クラウドには記憶あるのか?」
「ああ、もう殆んど戻った」
記憶を取り戻したというのに、クラウドは全然嬉しそうじゃない。それに今は戦う事を避けているようだった。元々そういう性格なのだろうか。
俺は暗い表情で俯く彼に頭を撫でられ、彼の膝の上で横になっていた。見ず知らずの他人にベタベタとくっつくことは可笑しいとは思っているが、クラウドは嫌がらないし、何よりも自分自身が落ち着く。
この世界は戦う事ばかり強要されて人の体温さえ忘れてしまいそうになるから。
「…お前が無理に戦う事はないさ」
どうせ、カオスが勝つと決まっている
そう言うクラウドの瞳は光を宿すことなく虚ろだった。
ああ、だからクラウドはカオスの戦士なのかと唐突に思う。
それと同じように俺も心に抱えたこの憎しみがあるから、こちらに選ばれたのかもしれない。
「ティーダ、今は休むといい」
「クラウド?」
「俺が起きてるから、」
ほら、目を閉じて。
そう促されるまま彼の膝に頭を乗せたた目蓋を閉じる。低い声がやけに落ち着く。
クラウドは強い。だからきっと敵が来ても守ってくれるという安心感があった。
地底から空へと吹き抜ける風が心地好い。
星の体内と呼ばれるこの場所はクラウドの世界にあった場所らしい。何だか懐かしいような、神秘的だけど何もない淋しい場所。
「どうして俺に優しいんスか?」
「…お前が悪い奴に見えないからだ」
自分の記憶がない今、自分自身がどんな人生を歩んできたのか。何を思って生きていたのかわからない。自分でも自分のことがよくわからないのに、クラウドは俺を悪い奴には見えないと言ってくれた。
それが少しこの身を軽くする。
クラウドの口調は淡々としている。感情が籠もっていないわけではなく、いつも何処か辛そうな淋しそうな雰囲気を纏っていた。
…そう感じるのは俺の勘違いかもしれないけど、何となくクラウドに構うのはそのせいかもしれない。
「クラウドは悪い奴なのか?」
答えは返ってこない。押し黙ったクラウドはただ俺の髪を撫でるばかり。
「クラウドは、良い奴だと思う」
目を閉じたままそう言葉にするとクラウドは動揺したように肩を揺らした。
(だってほら、こんなにも素直だからさ)
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20110713