■獅子×夢想
叫んでしまいたい気分だった。
声に出してしまえば、戦う事に対する自分の中のモヤモヤも元の世界の記憶がない不安も消えると思ったから。
仲間たちの輪から離れ、一人湖の見える木陰で腰を下ろす。テントからは微かに雑談をする声が聞こえた。
夕日が遠い山の向こうへ沈んでいくのが見える。眩しさに目を細め、背後にある太い木の幹に体を傾けた。
「…スコール」
草を踏みしめる音が聞こえ、そちらに振り向くとよく見知った青年が不機嫌そうに腕を組み仁王立ちしている。
「お前が何も言わずに出ていくから、皆が心配していた」
スコールはティーダにそう簡潔に呟くと用は済んだとばかりに背を向けた。
会話でもない、一方的なやり取りに面食らってティーダは目をパチパチと瞬かせる。
世話焼きでもない彼のことだから、もしかしたら仲間の誰かに自分を探してこいと頼まれたのかもしれない。
だとしたら、何だか悪い事をしてしまった
その背中に何と言おうと狼狽えているうちに、呼び止めなければ行ってしまうと焦ってティーダは咄嗟で彼の名を呼んだ
「スコール!」
「…何だ」
「まあ座れって」
自分の横をポンポンと叩いて隣に座るように促してみると、予想を裏切りスコールは嫌な顔をせず黙ってその場に座った。
「何だその顔は。座れと言ったのはお前だろ」
「う、うん」
驚いたのが顔に出ていたのかもしれない
じろりと自分を睨んで、スコールは自分と同じように木の幹に背を預ける姿勢になった。
「…」
会話は続かなかった。
腕を組み直すスコールは到底自分から口を開く様子はない。
沈黙が歯痒くソワソワする。
スコールはまだ怒っているのだろうか。
横目で表情を伺うと彼はいつもの仏頂面で自分の見ていた正面の地平線を見据えていた。
ティーダは気が抜けたように息を吐くと寄り添ったスコールの肩に首をのせてみた。
文句は返ってこない。今なら手を握っても怒られないんじゃないだろうか。
「…スコールは」
「何だ」
「何も聞かないんだな」
「…聞いてほしいのか」
言いたくないこともある。
だけどそばにいてほしいなんて我儘通じるのはスコールくらいだ。
彼なりの優しさで興味のないような素振りも自分が気負わない為、何を悩んでいるのか聞かないのは、俺が話したければ自分から話すだろうという検討をつけているから。
本当は悩んでいる事自体も曖昧でよくわからないのだけど。
肩にのせた頭をごろごろと擦り寄せてもスコールは文句一つ言わない。
頭を撫でてはくれなかったが、問い詰める事もせず自分が立ち上がるまで何も言わずにそばにいてくれた。
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20110711