■義士×夢想


銀色の鏡のような水面が遠ざかっていく。小さな泡たちは上へ上へと目指し、ひとつ、ふたつと自分を離れて消えていく。まるで空のように青い水の中を泳いでいると自分が飛んでいるような錯覚に陥る。肺の空気を吐き出すと何もせずとも体はゆっくり湖の底へ沈んでいった。
静寂に自分の吐く息の音だけが響く。
ティーダは自分が水の中にいると元の世界の記憶が思い出されるような気がした。それは懐かしく感じるものだったり、切なかったり、戦いの記憶も思い出させたが、自分の記憶が戻ると酷く落ち着いた。

目蓋を閉じる。この世界に来る前も自分は2つの世界を行き来した。始まりはいつも水の中だった…
ティーダは身を任せるまま体を水中に沈ませていた。


「おい、大丈夫か!」

いきなりザッパーンと激しい水しぶきが上がり、波紋が立つ水面の向こうから腕を引かれる。
何事かと目を開けた瞬間、強引に水の中から引き上げられ同時に大量の水を飲み込んでしまった。鼻に水が入ってツンと痛い。

「っ、げほッ!ごほッ!」

「良かった、息はしてるな」

「…な、フリオニール!!」

むせた息を整えながら、自分を引っ張り上げた人物を見上げる。彼自身も腰の辺りまで水に浸かり鎧やマントはもちろん、褐色の肌と銀色の髪には跳ねた水でびっしょりと濡れていた。
フリオニールは血相を変えてティーダを見下ろしている。

「心配したぞ…水中に5分近くも潜ってるから」

「いやいや全然余裕っスよ!」

ザナルカンド・エイブスのエースを舐めてもらっちゃ困る。ブリッツボールは水中に潜るだけでなく、激しくボールを奪い合う競技だ。これくらいでは息は上がらない。
ブリッツの事は前にもコスモスの仲間に説明したが、これがなかなか理解してもらえなかった。スポーツという単語を説明するのも難しい。

ピンピンしたティーダを見て、やっと己の早とちりに気付いたフリオニールは気まずそうに眉を寄せた。

「すまない、でも水中で何をしてたんだ?」

「うーん、落ち着くんスよね。水中が」

ティーダの返答にまたしても疑問符を並べる。フリオニールはそんなものか…と無理矢理自分を納得させた。

「邪魔して悪かったな」

「いや、いいっすよ。俺も紛らわしい事してたし…」

気恥ずかしいのはティーダも同じで、照れ臭そうに目を反らす。
本当は少し心配されて嬉しかったのだ

「でも心配性ッスね!のばらは」

困ったように笑う少年はからりと晴れた太陽のように眩しい。

(…本当は、何だかお前が、そのまま消えてしまうような気がして)
フリオニールは出掛けた言葉を飲み込む。
根拠のない不安からくる焦燥だった。いつも明るく振る舞う彼に潜む影が何なのかはわからない。フリオニールは無意識に掴んだ彼の手の感触が離せずにいた。



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20110704



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