■012:騎士と竜騎士

カインが呼び止めると何の疑いもなくセシルは笑顔で振り向いた。
彼の中の記憶のカインはまだかけがえのない親友なのだ。愛憎も裏切りも知らない。幼い頃から一番近くにいた仲間。異世界で同じように戦う戦士たちとはまた別に心から気を許せる間柄だった。

けれど疑心も軽蔑も向けられない。それは違和感と罪悪感でカインの心情をめちゃくちゃに掻き回した。自分だけが罪の意識と感覚を持っている。昔のように何事なかったかのように彼と話せる、それがまた彼を裏切っているかのような錯覚に陥らせた。
ここに彼の恋人がいないことが、せめてもの救いか。

「どうかした?」
「ああ、お前に用がある」

カインがセシルの前に現れたのは他でもない、ウォーリア・オブ・ライトととの計画を実行する為だった。
一人でも多くのコスモスの戦士を次の闘争へ見送る為に彼はたった一人で戦士たちをイミテーションが来ない安全な場所へ移している。セシルもその対象の一人。

まともにやり合えば同士討ちになる危険性もあったが、カインは敢えてセシルに声をかけた。あの時のように背後から狙う事も出来た。でも今度は自分の意志で動いている。それだけはしないと心に誓ったのだ。

説明するつもりはない。どうせ彼は自分と同じ道を行こうとする。それでは計画にならない。これは自分勝手な懺悔なのだと思う。
彼に生き残って欲しい、彼は元の世界へ戻るべき人間なのだから。その為にまた彼に手をかけることになるのも自分の運命かもしれない。

「剣を取れ、セシル」

カインが槍を握っても、セシルは剣を握らなかった。状況を掴めない彼は顔を曇らせるばかりで戦意など最初からない。

「早くしろ!」
「…一体どうしたんだよ!」

切迫した叫び声でやっと彼はその手に暗黒剣を構えた。

「勝負だセシル」

地を蹴り、カインは空へと飛び上がった。
きっと彼に刄を向けるのは最後だと願いたい。戸惑うセシルも戦闘には全力だった。
聖騎士に姿を変え、同じように飛び上がると剣を振り上げカインの槍を弾く。
すかさず両手に持ちかえ胴を狙った槍を横から振り回した。横腹の強烈な打撃でバランスを崩したそこをすかさず先制する。
怯んだセシルの手から剣が離れた。

背後から槍を突き付ける。
後ろ手に振り向いたセシルの顔が引きつるのをカインは見た。あの時のように。

「…カイン、どうして」

どうしてと彼は問う。
また自分は彼を裏切ったのだろう。



---
20110918



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -